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2012年6月30日 (土)

ノーベルガイド(ノーベルクリニシャン)

 去る今年4月、自宅のメインパソコンを更新すると同時に、ついにノーベルクリニシャンソフトウェアを購入して使い始めました。これは何かというと、「ノーベル」とはノーベルバイオケア、当院で採用しているインプラントのメーカーであり、現在のチタン製骨内インプラントの原型であるブローネマルクシステムを有するメーカーです。そしてこのソフトはインプラントの治療計画をシミュレーションし、埋入手術用のガイドを発注するためのものです。

 ノーベルガイドについてはネットを紐解けばさまざまなサイトにて動画などで説明されていますが、以下に何とか文章にて説明してみようと思います。インプラントの治療の目的は、「インプラントを骨に埋めること」ではなく、「インプラントで上手く噛める、あるいは綺麗な歯が入ること」です。そのためには補綴物、つまりインプラントの上に結合する歯や歯茎の部分が適正な位置にあることが重要で、そのためにそれを支えるインプラントを適切な位置に埋め込むことが必要です。

 基本的にはもともと歯根があった場所に埋められれば良いわけですが、残念ながら歯を抜いたあとは顎の骨が縦にも横にも減っています。さらに上顎では上顎洞、下顎では下顎管に代表される、避けるべき解剖学的構造がもともとあります。したがってインプラントの治療計画では、これらの要素に何とか折り合いをつけてインプラントの埋入位置を決めることになります。

 ある意味で理想的には、必ず最も良い位置に補綴物が設定できるように、骨や歯肉の増生手術をおこなってからインプラントを埋め込むという考え方もあります。前歯などで審美性が高度に要求される部位ではこのような考え方が優先されますが、できれば患者さんは大きな手術は避けたいと考えるでしょう。また、移植や人工物で増生した部分は長い目で見ると結構吸収してしまうということが最近では言われ、もともと骨がある部分を探して埋め込むことがまた見直されているようです。

 この様に「折り合いをつけた」インプラント埋入位置というのは、3次元的に複雑な方向で、ミリ単位の誤差が要求されます。そのため、目分量で行う手術では解剖学的構造がよく分かるように大きく粘膜を剥がし、歯根や骨の形がわかるようにしてドリリングします。しかしそれでもどうしても「絶対当たってはいけないところ」を避けるために、どうしても浅かったり歯から離れてしまったりすることが多いようです。

 ノーベルガイドでは、まず患者さんの模型上にワックスアップ(ロウで歯の形を作ること)してインプラントによって完成した状態を作ります。それをレジンに置き換え、X線を通さない点状の目印を埋め込み、その装置をはめて患者さんのCTを撮らせてもらいます。そして我々術者がその画像、すなわち患者さんの骨と完成した歯列の画像をパソコン上のソフトウェアで重ねて、見ながらインプラントの埋入位置などの治療計画を立てます。さらに骨を削るドリルの方向と深さを規定する装置であるサージカルガイドをメーカーに発注します。作られてきたガイドをきちんと口腔内に固定し、手術をすることによって、計画した位置にインプラントを埋入することができるのです。

 口腔内にきちんと適合したガイドを作り、また手術時にそれを定位置にきちんと固定できれば、計画したとおりにインプラントを埋入することができることになっています。私も経費がかかること、また実際のオペ時に粘膜を開けると骨の形はイメージと随分違うこと、などからノーベルガイドの採用には踏み込めませんでした。しかしこれまでの自分のインプラント埋入結果を反省した時、たとえば残存歯の隣のインプラントが歯根に当たることを恐れて残存歯から離れてしまう、下顎管への干渉や下顎舌側への穿孔を恐れるために浅くなってしまう、など慎重すぎて位置がいまいちの場合が多いようでした。これを解消するために、思い切って費用をかけてガイディッドサージェリーを導入しました。

 実際に数例やってみた現在の感想は、とにかくオペが早く、すなわち手術時間が短くなりました。今までのドリリングがいかにおそるおそるやっていたか、ということが改めてわかりました。そして埋入結果をCTで確認すると、ほんの少し浅めになりがちではあるものの、ほとんど計画したとおりにできていることもわかりました。また術後の腫れや痛みなど患者さんのご負担も非常に軽減されるようです。「フラップレスなどはもってのほか」などと思っていたのですが、慎重に使用してみて考えが変わりました。当方の準備は結構大変なのですが、すっかりノーベルガイドのファンになりました。

 もっとも全てが可能なわけではなく、サイナスリフト法を始めとして骨の造成など付加的な手術が必要な場合は簡単には行きません。フラップをきちんと開けて手術を行うことが必要になります。それでもその中あるいはその後のインプラントの埋入に関しては、ガイドを使用してきっちりと位置を決めることが良いと思います。

 というわけで、これからはできるだけノーベルクリニシャンソフトをガイドを用いた手術を行いたいと思っています。

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