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2009年3月15日 (日)

総合力のパーシャル その3 

 さて、パーシャルの難しいところはどこでしょう。確かに例えば総義歯に比べ、パッと型を取って残った歯にバネをかけて作れば、それによって落ちてこない、ある程度安定した入れ歯はとりあえず入れることが出来ます。またケースによってはまさにそう言える安易なものもあります。しかし補綴物の重要な条件である「残存組織にできるだけ害がない」ということ、つまりバネをかけた歯が悪くならず、さらに歯のない部分の顎ができるだけ減らないような入れ歯を実現することは、非常に難しいことです。
 また、歯の残り方によってはとりあえず入れるだけでもかなり難しい場合もあります。残った歯の状態や分布によっては入れ歯を落ち着かせることも難しい場合もありますし、また残った歯を頼りにして噛もうとする為、咬み合わせがよく分からなくなる場合もあります。

 なぜこのような難しさがあるかいえば、パーシャルはそれを支えるものとして「歯」と「顎提粘膜」という全く性質の異なる2つのものを相手にしなければならないからです。この2つのものによってパーシャルは噛む力を発揮したり、口の中に固定されたりし、また2つのものがあるために虫歯にも歯周病にも粘膜炎になったりするわけです。

 またパーシャルの装置それ自体を考えても、複雑な形態になることや取り外しをしなければならないことによって、製作の困難さ、精密性の要求、強度的な弱点、汚れやすさ等が発生します。歯がないところを補う部分、すなわち床の部分は出たり引っ込んだり、人工歯は凸凹に並ぶことも多く、またクラスプ(バネ)などの維持装置は歯に精密に合っていなければなりません。

 これらの中でも最も厄介なこと、それは快適に使えるかという短期的な目でも、長持ちするかという長期的な目でも難しいことは、「力の配分」の問題です。口の中に入れた義歯には様々な力がかかりますが、それらはおおむね「咬む力」と「外れる力」と「動かす力」の3つに分けられます。固定式の補綴物ではこれらはすべて歯によって受け止められます。また総義歯では「咬む力」は顎提によって、その他の力は(頼りないものの)周辺の筋肉や吸着力によって荷われます。しかしパーシャルではこれらが歯と顎提(歯のない顎)という性質の異なるものに分配しなければならないため、複雑なことが起こるわけです。

 歯は歯根膜というクッションを介して顎の骨にしっかりとくっついており、健全な状態ではその動きはごく小さいものです。それに対し、顎提は柔らかい粘膜で覆われており、その上に載せた義歯は大きく沈み込んだり動いたりします。義歯が外れないようにするバネなどの装置は歯にかけるため、動かない部分と動く部分が連結され、状況によっては歯や顎提にダメージを与えてしまいます。さらに長期的には顎提の骨がだんだん減っていったりするために、さらに変化がおこってきます。

 このような条件の中で、入れたときにきちんと噛めて、できるだけ残った組織に害を与えないように作るような設計を行わなければならないのです。