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2009年2月 6日 (金)

総合力のパーシャル(早くも番外編) 五十嵐教授講演

 まだ書き出したばかりのこのシリーズですが、早くも番外編です。昨日(21年2月5日)、伊勢崎佐波歯科医師会の学術講演会で、東京医科歯科大学の部分床義歯の教授、五十嵐順正先生のご講演がありました。演題は『パーシャルデンチャー「部分床義歯を再考する」~保険義歯でもここまでやろう~』、ということでまさにパーシャルの話しでした。

 五十嵐先生は現在東京医科歯科大学の部分床義歯の教授ですが、医科歯科卒後第1補綴(部分床)に残られ助手を務められた後、昭和大学助教授、松本歯科大学教授を経て平成18年から母校の教授となられました。ちょうど私が学部、大学院、医員、助手と在籍中に重ならなかったので直接のお付き合いは無かったのですが、主なご研究の分野が私の顎補綴で研究していたテーマと非常に関係するため、論文を読ませて頂いたり学会発表でよく知っておりました。

 昨年夏講習会に行った鈴木哲也先生もそうでしたが、今回も同じ大学の補綴の先生のお話であり、とっても安心して聴いていられるというか、納得して聴いていられる講演でした。といっても新しいことがなくて意味がないということでは全くなく、断片や感覚として漠然と頭にある知識や技術が、すっきりと整理されてストンと収まった非常にいい感じです。

 部分床義歯の歴史は長いもので、その基礎となる考え方としていろいろなコンセプトがこれまでに現れ、流行してきました。しかし様々な研究の集積から現在のパーシャルデンチャーのオーソドックスな考え方は大体固まっています。まず大きな課題である力の分配の問題としてはリジッドサポートといわれるもの(後のシリーズで説明予定)、設計の基本的な処置方針としては「動かない」「汚れない(汚さない)」「壊れない」義歯という3点が挙げられました。またそれを実現するための大きなポイントとして、残存歯の前処置が非常に重要であるということでした。

 しかしそれを実際の臨床で実現するのは、特に「保険」という制約の範囲内では簡単ではない。ただそれは不可能なことではなく、その具体的な方法も示されましたが、先生がいみじくもおっしゃった様に「ここまでやる根性があるかどうか」が鍵だとまさしく思いました。

 自分の臨床を顧みるに、特に床義歯系の補綴に関しては知識と技術はソコソコのレベルではあると思います。しかしそれをフルに活かしているかといえば、印象法、咬合採得、使用材料、設計等、かなり「根性」のある事をやっていると自負してはいるものの、まだまだ「ひと根性」加える余地があるということを昨日の講演で教えられました。今後も患者さんの利益と自分の臨床をレベルアップするように、精進していきたいと思います。

 講演会終了後に講師を囲んでの懇親会がありました。直接の接点はない私でしたが、先生はとってもフレンドリーな方で、いろいろと親しくお話をさせていただきました。特に当院のHPをご覧になっていたということには驚きました。やたらな事は書けないナと思っております。

2009年2月 5日 (木)

総合力のパーシャル その2 部分入れ歯の構造

 それではまず、基本的な「部分入れ歯」の話しから。部分入れ歯とひとことで言っても、歯が一本の義歯からほとんど総入れ歯に近いもの、前歯の入れ歯、奥歯の入れ歯、千差万別で、どこから説明してよいのか迷います。まず共通する部分というか、部品に分けることが出来るので、それを説明しましょう。まず失った歯の代わりになる「人工歯」、人工歯を支えるピンク色の「床」、そして入れ歯が落ちないようにするための「維持装置」です。Photo_2

 「人工歯」はまさにその名の通り、人の実物の歯に似た形をした人工の歯です。人の天然の歯は各個人によって大きさ、形、色など異なるので、人工歯も多くの種類があります。総義歯の場合かなり自由に、そろえて歯を並べることが出来ますが、部分入れ歯の場合残っている歯に、見かけも機能的にも調和するように並べなければりません。

 「床(しょう)」はこの人工歯を支持し、また人工歯に伝わったかみ合わせの力を顎提(歯のないあごの部分)に伝えます。さらに歯を抜いたあとに減ってしまった歯茎の部分を補うことで、唇や頬を内側から支え、また口の中の余分な空間を埋めます。基本的には歯肉の色のアクリル樹脂で作られますが、骨格に金属を用いる場合もあります。

 「維持装置」はいわゆる入れ歯のバネで、装置全体が所定の位置にしっかり収まり、外れたり動いたりしないようにするものです。普通の部分入れ歯では、歯を表・裏から2本の「腕」で囲むような形のバネ(クラスプという)が用いられます。これは針金を曲げたり、金属を鋳造(鋳物の方法)して作ったりします。その他にアタッチメントという精密な部品や、コーヌスクローネといって二重にした冠を用いる場合もあります。いずれもただ歯に引っかかって入れ歯を落ちない様にするだけでなく、義歯にかかる様々な力を適切に残った歯に伝えることが重要です。どのような装置を用いるか、またその配置などの設計はわれわれ歯科医師の腕の見せ所であり、それが義歯の作成当初の具合のみならず義歯と天然歯の寿命に大きく関わってきます。

 これら以外に、床や維持装置を連結する金属部分のパラタルバー(上顎)・リンガルバー(下顎)、フックやレスト等の補助的な維持装置など多種多様な部品を組み合わせて、部分入れ歯は出来ています。