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2009年6月11日 (木)

総合力のパーシャル その5 さまざまな義歯

 さて、現在作られている部分入れ歯のほとんどのものは、ここまで述べてきた「クラスプ義歯」だと思います。すなわち、クラスプ(鉤)といわれる「ばね」を残っている歯にかけて、義歯を定位置に固定する方法をとるものです。健康保険で作ることができる義歯はこの方式の義歯だけなので、必然的にクラスプ義歯が最も一般的だと思われます。
 しかし、健康保険の縛りを解き放つと、すなわち自費で治療させていただけると、部分入れ歯は非常に多様な、そして最適な義歯を作ることができます。保険の範囲内でもクラスプ(ばね)の種類や配置を変えることなど、多様な設計が可能でそれによって義歯の性能は変わります。しかしクラスプの本質的な性質上、どうしても義歯の動揺を完全に抑えるのは困難です。義歯の動きは義歯を入れた時の違和感の大きな原因であり、また残っている歯や顎の骨の保存に悪影響があります。

 これを解決する一つの方法が、アタッチメント義歯やコーヌス・テレスコープ義歯です。アタッチメントとは、義歯を支えるための機能を集約した小さな部品のことで、口腔内に残る部分と義歯に残る部分がぴったりと結合するようになっており、その中に小さなばね構造や摩擦によって力を発揮する構造をもっています。義歯の設計上必要な場所の歯や歯根にアタッチメントの口腔内部分を付けた冠などを装着し、それによって義歯を定位置に支えます。必要な機能を発揮する形態として設計されているため、通常の義歯に比べて動揺や歯に与える為害性は少なく、また何といってもばねが見えず異物感も少なくできる利点があります。さまざまな種類のアタッチメントがありますが、既成のものは摩耗や変形を防ぐために硬い白金加金で作られています。また一部には交換可能なプラスチックやゴムの部品を用いているものもあります。また既成のプラスチックの型を使用して鋳造して作るものもあります。当院では根面板を用いたスタッドアタッチメントのひとつであるOPアンカー、バーアタッチメントのCMライダー、また歯冠外のスライドアタッチメントであるミニSGなどを用いています。

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 左の図はミニSGを用いた義歯です。口の中の歯列の最後部2ヶ所に突起が出ています。これが義歯側の凹部(赤いプラスチック製の部品が見えるところ)にピッタリとはまり込んで、義歯が固定されます。

 

 コーヌス・テレスコープとは二重冠を用いた義歯の維持、支持方法です。残っているすべてあるいは一部の歯を削り、円筒に近いテーパーを持った冠をかぶせます(内冠)。それに対して精密にはまりこむ冠(外冠)を作って取り外すほうの義歯の一部に取り込み、この両者がピッタリとはまることで義歯が固定されます。製作は大変ですが、部分入れ歯と残った歯を一体のものとして固定するという「リジッド・サポート」という優れた考え方に最も合致した方法のひとつです。そのため、義歯の機能としても残った歯を長持ちさせる性能としても、非常に優秀な方法です。

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 いずれも模型上の写真ですが、上顎の前歯部欠損に対し、ほとんどブリッジ(固定性の義歯)に近い状態で適用した例です。真ん中のような内冠を削った歯にかぶせ、これに右側のように精密に適合する外冠がついた義歯をはめ込みます。左側が装着したところです。 

 ところで、最近一部で「柔らかい入れ歯」がもてはやされています。これには2種類あって、「全体の構造は硬い入れ歯の、粘膜に接する部分だけを柔らかい樹脂で作ったもの」と、「全体を柔らかい樹脂で作り柔軟に曲がるもの、さらにはクラスプ等も柔らかい樹脂で歯肉を覆うようなもの」です。前者はどうしてもあごの粘膜が薄く、「当り」が残ってしまう患者さんには有用な方法です。しかしほとんどの患者さんには必要ありません。ただし後者は、まったくダメな、有害な義歯と考えます(補綴学会の見解は http://www.hotetsu.com/j/koushin/090309.htmlを参照)。一時的には快適に思えることがあるようですが、残った顎や歯に方向の規定されない強い力が働くことで、大きな害があると予想されます。基本的に義歯の全体構造は、剛性を高める(曲がりにくくする)ことをずっと目標として作られてきた歴史があり、それには理由があるからです。このような「ノンクラスプデンチャー」を勧める話には要注意です。

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