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2008年8月25日 (月)

総義歯の作り方5:私の臨床

 しばらく総義歯の治療ステップに関して書いてきましたが、最後にまとめとして私の無歯顎補綴に関する考え書いておこうと思います。実を言うと前回の記事に書いた鈴木哲也先生の講演によって、漠然と考えていたことがまとまって言葉にしてもらったということもあり、多分に重なっている部分があります。

 技術的なことが大きなウエイトを占める(と思われている)歯科医療においては、「神技」を持つ「名人」といわれる先生方がおり(またはいると考えられており)、それを祭り上げてありがたがる様な傾向が歯科医師にも患者さんにもあると思います。そしてその様なことが、総義歯の治療においてけっこう特徴的に現れているようです。しかし以前にも書いたように、歯科医療があくまでも「医療」である以上、多くの人がリーズナブルな医療費でそこそこ合格点の結果を得られなければダメだと思います。

 しかしながら現状としては、患者さん側、歯科医師側双方にいくつかの医学的、あるいは社会的な問題点があります。まず患者さん側の問題。まず総義歯の難症例が増えているということ。平均寿命の延び、歯周病など歯がひどく悪くならないと抜歯しなくなったこと、等から総義歯が必要になる時には顎の条件がかなり悪くなっている場合が多いようです。鈴木先生の講演にもあったように、教科書にあるような古典的なアプローチではなかなか難しくなっているのが現状のようです。また患者さんの権利意識や巷間にあふれる安易な医学情報により、簡単にうまく行かなくては失敗やミスだという考えを持つ人が多くなっていること。問題点を探って調整や再製を行なえばうまく行く症例が、そのままになってしまう場合が多いように思います。

 それに対して歯科医師側の問題ですが、まず最低教科書どおりの臨床さえしているかどうか。経費や時間の問題で、なかなかそれさえ行なわれていないと私は思います。教科書どおりのステップで臨床を行うことで、かなりの症例ではうまく行くと思います。また難症例に対しては、それなりの勉強と試行錯誤が必要だと思いますが、上記のような患者さんの問題や歯科医の中での流行のために、特に若い先生方はなかなかその機会を得ることが難しい状況があると思います。

 ひるがえって私の目標とする臨床は、ホームランを狙うのではなくコツコツと、教科書的に丁寧なステップを踏むことによって、何とか実用に十分な義歯を作ることです。そして現在のように難しい症例が多い状況にあっては、義歯装着後の何回かの「調整」のステップを含んで初めて完了するのが義歯の診療と考えています。従って装着後に調整が必要なことは必然であり、それをもって失敗と考えないし、また患者さんにも思ってほしくありません。また基本的に技工を自分でやることで、細かな部分まで自ら把握することが出来ると思っています。また決定的なエラーがあったときには、責任を持って再製作を行ないます。

 それでも、何回も調整し、やり直してもダメな場合もあります。そのためのオプションとして、軟質裏装材(柔らかい材料)やインプラントがあります。総義歯はすべての負荷を顎の粘膜で受け止めるわけで、顎の骨と義歯の間に粘膜が挟まれることになり、その力を出来るだけ大きな面積に均等に分散させることが必要になるわけです。従って噛み合せの力が大きい人や顎の骨が小さい、あるいは凸凹している人が痛くなりやすいわけです。いくら調整してもこのようなことで痛みが出る人は、義歯のほうをやわらかい材料で作ることがひとつの解決法になります。

 また、義歯が動くのがどうしても気になったり義歯の大きさが気になる人には、インプラントによる解決法もあります。もちろん義歯の当たりが消えない人にも有効な方法です。「経済的なこと」と「手術が嫌ではないか」という2つのハードルを越えられれば、インプラントによる解決は最も効果的で、十分に機能するすなわち噛める、話せる、痛くない義歯が入ります。インプラントの威力は本当に大きく、取り外し式の義歯は残念ながらどうやっても絶対にインプラント義歯にはかなわないと思います。ただし、あまりに顎の骨が減ってしまっている場合、不可能な場合もあります。

 とにかく現代の医療とテクノロジーを持ってすれば、ほとんど(残念ながら「全部」ではない)の方には何とかそこそこ噛める補綴物を作ることが出来るはずです。歯をすべて失ってしまい、さらに治療がうまく行かずに困っている方、またもうすぐ歯が抜けてしまいそうで不安な方、あきらめずにご自分にあった歯科医院を探してください。

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