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2008年9月 7日 (日)

無歯顎のインプラント:総義歯の作り方 番外編

 総義歯治療の番外編として、インプラントのことを書こうと思います。

 最近インプラントによる治療が急速に普及していますが、患者さんの中には無歯顎、すなわち総入れ歯ではインプラントはできないと思っている方が少なからずいらっしゃるようです。これは全くの誤解で、もともと現在のインプラントシステムの源流であるブローネマルク先生の初めての症例は、今から40年あまり前に行なわれた下顎の無歯顎に対する治療でした。何といっても下顎の総義歯はなかなか安定しづらいのですが、その解決法として最も骨が硬くて邪魔な神経等もない下の前歯の部分に4本のインプラントを埋入し、それで支えられる固定式の義歯を入れたケースでした。この第一号の患者さんはずっとこの義歯を使い続け、今から数年前に天寿を全うしました。すなわちインプラントは40年近く持ったということです。

 その後様々なインプラントのシステムが誕生し、また手術法、補綴法(歯の入れ方)も数多く開発され、現在も進化していますが、かなり異なった考え方が混在しています。例えばまずインプラントの本数に関して。無歯顎ということは補綴する「歯の数」は上下それぞれ14本になります。これに対し、あくまでも1本の歯に対して1本のインプラントという考え方、したがって14本あるいはそれに近い数のインプラントを使おうという考え方があります。一方では最も少ない数として3本あればよいという先生もいます。

 また、歯を失うということは歯そのものだけではなく、それを支える骨や歯肉も次第に失われていきます。適正な位置に歯を並べて十分な機能を回復するには、歯だけではなくこれらの組織も回復しなければなりません。それは手術的方法によって骨や歯肉を移植することによってもできますし、義歯のように人工的な歯肉の部分を作ることによっても可能です。

 そしてインプラントの数の差や歯肉部分の回復法に対応して、上部構造(埋めたインプラントに結合して実際に口の中で機能する人工歯などの部分)の形が変わってくるわけです。具体的には歯冠すなわち本当に歯の部分のみのものから、それに歯肉の部分がついたもの、さらには通常の義歯と同様に人工歯を歯肉の部分の上に並べたもの、などです。さらに、必要な場合にはオーバーデンチャーといって、インプラントを支えにした取り外し式の義歯を入れる場合もあります。これは同じ入れ歯ですが、普通の総義歯に比べてしっかりと固定されて動きにくく、また噛む力を支える能力も十分発揮されます。

 これらの中で最近話題を集めているのが、オールオン4というコンセプトです。これは上下それぞれ4本ずつのインプラントを、骨移植等を伴わずに傾斜埋入で骨のあるところに埋入し、さらに即時すなわち手術した日に咬める様にしてしまうという方法です。これはポルトガルのマロ先生の理論と数多くの臨床に裏付けられたもので、かなり確実性の高い術式だといわれています。

 当院でもこれまで数例の無歯顎症例を行なってきましたが、患者さんの顎や咬み合わせの状態によって、その方法は臨機応変使い分けています。しかし基本的な考え方は、必要最小限のインプラントの数でできるだけ経済的に、その上で機能的、審美的に十分なものを入れようということです。したがってインプラントの数は通常4~6本、顎の骨や歯肉が十分残っている時は歯冠のみの000034_20080705_0004連結ブリッジのような形で、歯肉が必要な時は義歯の一部分として作るようにしています。そしてできるだけ骨の移植や人工骨による骨増生は避けたいですが、どうしても必要な時は行ないます。

 近年CAD・CAMの手法を用いて精密な補綴物を作る事が行なわれ始めていますが、動揺がない故に天然歯に比べてより正確さが要求されるインプラントの技工においても、その利点は発揮されています。写真はチタンのブロックを削りだして作った構造上にハイブリッドセラミックスといわれる材料を盛り上げて作ったインプラント補綴物です。口の中ではネジによっ000034_20080705_0006てインプラントに固定されます。左はその様に作った当院の症例です。

 さて、このようなインプラント義歯を作るには、通常の総義歯を含めて一般的な補綴の技術がしっかりしていることが非常に重要だと思います。しかし最近、普通の義歯が上手くいかないため、あるいは残存歯を保存する治療がしっかり出来ないため、安易にインプラントに持っていく風潮が見られるようであり、それは本末転倒といえます。患者さんには是非、きちんとした一般の治療が行なわれている先生を探して、インプラント治療も受けてほしいと思います。その上でのインプラントの適用は、極めて大きな武器になるのです。