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2009年6月26日 (金)

怒涛の6月

 毎年大体そうなのですが、今年も嵐のような6月がやっと終わりに近づきつつあります。6月といえば歯科にとっては6月4日を中心とした「虫歯予防」の月、それで忙しいのが普通ですが、私にとっては「学会」と「音楽」の月なのです。今年はそれが日曜にずっと並んで、というか自らそう予定を入れたのですが、ずっと休み無しなのでした。5/30午後・31 Pacific Osseointegration Conference、6/6・7 日本補綴歯科学会、 6/14 インプラント周囲のソフトティッシュマネジメント講演会(鈴木真名先生)、6/18 保育所健診、 6/21 前響楽芸会、6/25 群馬県歯科医学会役員会と公開講座 というわけです。

 5月30・31日のPOCは、一昨年に続き第2回、日本におけるブローネマルクインプラントの草分けである小宮山先生らが立ち上げた学術集会です。第1回目の報告は以前のブログをご参照ください。今年は、その普及に伴い急速に問題点が噴出しつつあるインプラントの現在に焦点を当てた、実にタイムリーなテーマ設定でした。というか、もともと設立の趣旨のひとつが安易なインプラントへの警鐘ということでありました。私は土曜日を一日休みにするわけにはいかず、午後からの参加でした。一昨年に比べて若干焦点の広がった内容という印象でしたが特に最後のディスカッションでは有益な議論が聞かれました。

 補綴学会とインプラント周囲のソフトティッシュマネジメント講演会、楽芸会は別項で報告します。6月18日(木)は嘱託医として担当している花の森保育園の歯科健診でした。今年はほぼ健診のみでしたが、同じ年齢の子が同じように並んで検診を受けても、口のあけ方、態度、おしゃべりなどみな個性があり、いつも大変面白く診させてもらっています。どうしても診療椅子と違い若干暗い状況での健診であり、見落としやなかなか判断のつかないところもありますが、最後のお話で言ったようにこれが自分お口の中に関心を持つ機会になってくれればと思います。

 本日6月25日(木)は群馬県歯科医学会の役員会、総会、特別講演でした。群馬県歯科医学会は歯科医師会とは別組織の学会で、歯科医師会会員の約半数が入っています。今年から伊勢崎佐波地区の幹事として、役員に名を連ねることになりました。はっきり認識していなかったのですが、学会が発足してもう13年だそうです。これまで特に熱心な会員ではなかったのですが、これも何かの縁だと思います、微力ながら働いていきたいと思います。

 その特別講演は、明海大学の補綴の教授である藤沢政紀先生による「顎関節症治療から学んだ補綴臨床の注意点-さまよえる患者を診る、知る、そしてつくらないために-」でした。非常に臨床に即した、どちらかというと歯科心身症的なお話と、顎関節症については特に復位性・非復位性関節円板前方転位に対する治療の変遷等について話されました。最初に講師自身がおっしゃっていたように系統だった話ではありませんでしたが、症例を通じて、われわれ歯科医師の患者に対する姿勢、治療や病態というものに関するかかわり方を改めて考えさせてくれ、謙虚かつ真摯な取り組みが必要なことを強調したお話でした。そしてそれは私自身の普段考えている診療姿勢にとてもフィットするものであり、聴いていてスッと入ってくるご講演でした。

2009年6月11日 (木)

総合力のパーシャル その5 さまざまな義歯

 さて、現在作られている部分入れ歯のほとんどのものは、ここまで述べてきた「クラスプ義歯」だと思います。すなわち、クラスプ(鉤)といわれる「ばね」を残っている歯にかけて、義歯を定位置に固定する方法をとるものです。健康保険で作ることができる義歯はこの方式の義歯だけなので、必然的にクラスプ義歯が最も一般的だと思われます。
 しかし、健康保険の縛りを解き放つと、すなわち自費で治療させていただけると、部分入れ歯は非常に多様な、そして最適な義歯を作ることができます。保険の範囲内でもクラスプ(ばね)の種類や配置を変えることなど、多様な設計が可能でそれによって義歯の性能は変わります。しかしクラスプの本質的な性質上、どうしても義歯の動揺を完全に抑えるのは困難です。義歯の動きは義歯を入れた時の違和感の大きな原因であり、また残っている歯や顎の骨の保存に悪影響があります。

 これを解決する一つの方法が、アタッチメント義歯やコーヌス・テレスコープ義歯です。アタッチメントとは、義歯を支えるための機能を集約した小さな部品のことで、口腔内に残る部分と義歯に残る部分がぴったりと結合するようになっており、その中に小さなばね構造や摩擦によって力を発揮する構造をもっています。義歯の設計上必要な場所の歯や歯根にアタッチメントの口腔内部分を付けた冠などを装着し、それによって義歯を定位置に支えます。必要な機能を発揮する形態として設計されているため、通常の義歯に比べて動揺や歯に与える為害性は少なく、また何といってもばねが見えず異物感も少なくできる利点があります。さまざまな種類のアタッチメントがありますが、既成のものは摩耗や変形を防ぐために硬い白金加金で作られています。また一部には交換可能なプラスチックやゴムの部品を用いているものもあります。また既成のプラスチックの型を使用して鋳造して作るものもあります。当院では根面板を用いたスタッドアタッチメントのひとつであるOPアンカー、バーアタッチメントのCMライダー、また歯冠外のスライドアタッチメントであるミニSGなどを用いています。

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 左の図はミニSGを用いた義歯です。口の中の歯列の最後部2ヶ所に突起が出ています。これが義歯側の凹部(赤いプラスチック製の部品が見えるところ)にピッタリとはまり込んで、義歯が固定されます。

 

 コーヌス・テレスコープとは二重冠を用いた義歯の維持、支持方法です。残っているすべてあるいは一部の歯を削り、円筒に近いテーパーを持った冠をかぶせます(内冠)。それに対して精密にはまりこむ冠(外冠)を作って取り外すほうの義歯の一部に取り込み、この両者がピッタリとはまることで義歯が固定されます。製作は大変ですが、部分入れ歯と残った歯を一体のものとして固定するという「リジッド・サポート」という優れた考え方に最も合致した方法のひとつです。そのため、義歯の機能としても残った歯を長持ちさせる性能としても、非常に優秀な方法です。

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 いずれも模型上の写真ですが、上顎の前歯部欠損に対し、ほとんどブリッジ(固定性の義歯)に近い状態で適用した例です。真ん中のような内冠を削った歯にかぶせ、これに右側のように精密に適合する外冠がついた義歯をはめ込みます。左側が装着したところです。 

 ところで、最近一部で「柔らかい入れ歯」がもてはやされています。これには2種類あって、「全体の構造は硬い入れ歯の、粘膜に接する部分だけを柔らかい樹脂で作ったもの」と、「全体を柔らかい樹脂で作り柔軟に曲がるもの、さらにはクラスプ等も柔らかい樹脂で歯肉を覆うようなもの」です。前者はどうしてもあごの粘膜が薄く、「当り」が残ってしまう患者さんには有用な方法です。しかしほとんどの患者さんには必要ありません。ただし後者は、まったくダメな、有害な義歯と考えます(補綴学会の見解は http://www.hotetsu.com/j/koushin/090309.htmlを参照)。一時的には快適に思えることがあるようですが、残った顎や歯に方向の規定されない強い力が働くことで、大きな害があると予想されます。基本的に義歯の全体構造は、剛性を高める(曲がりにくくする)ことをずっと目標として作られてきた歴史があり、それには理由があるからです。このような「ノンクラスプデンチャー」を勧める話には要注意です。