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2010年6月29日 (火)

補綴学会2010

 先週6月12日(土)は休診にし、補綴学会に行ってきました。今年は日本歯科大学の主幹で、東京ビックサイトでの開催でした。朝から新幹線で東京へ、京葉、りんかい線で会場に向かいました。
 補綴学会は近年、一般の口演発表の占める割合は少なくなり、シンポジウムや特別講演などの時間割が多くなっています。一般講演はポスター発表が多くの数でなされています。今年も土曜の午前中は主に一般の口演でしたが、あとは聴こうと思えばずっとシンポジウムなどをはしごできましたが、どうも聴きたいものが重なっていたりうまいこと配分されていない感じでした。以下、印象に残った講演について。

 一日目午前中の一般口演では、有床義歯などのセッションを聴いていました。私が大学にいた頃からの研究テーマと同じようなことが相変わらず行われていたりとか、どうかなと思う発表もありましたが、臨床的にこれから価値が認められていくだろうと思われる発表もありました。印象に残ったひとつは愛院大の「3次元形状計測装置および3次元造型法を用いたエピテーゼ製作法について」で、顔面補綴におけるCAD-CAMの応用について知ることができました。

 午後はメインシンポジウムⅠ、Ⅱの『咬合・咀嚼が生体に及ぼす影響を考える』も非常に興味があったのですが、どうしようと迷った挙句その裏を聴きました。臨床スキルアップセミナー『全部床義歯を再考する』では、まず医科歯科の全部床の水口教授が「印象採得時に考慮すべきこと」として伝統的な(?)個人トレーとコンパウンドによる筋形成による行う印象時の細かいノウハウについて、話されました。特に下顎の印象については、最近それを売りにしている講演や研修も多い中で、非常に(私にとっては)オーソドックスな方法での整理されたお話で、あらためて聴くとストンと納得するものでした。また鶴見の大久保先生による「RemodelingからPiezographyへ」は昔からある人工歯を配列する位置を決めるニュートラルゾーンという考え方を実現する方法として、興味あるものでした。特に水口先生は、私の大学時代のサークル(お茶の水管弦楽団、という大学オケ)の2年先輩で仲良し(?)であり、是非一度聴いておきたいことだったので、良い機会でした。その後は臨床シンポジウムⅡ『ジルコニアセラミックス修復による審美補綴歯科治療成功の鍵』を聴きました。むとべDCの六人部慶彦先生と、(株)カスプデンタルサプライの山田和伸先生(DT)による講演でした。六人部先生は先生が阪大在籍時の何年か前の補綴学会で、業者によるランチョンセミナーでの形成に関する講演を聴いたことがありました。その時の症例の美しさや、ご自分で書かれたプレパレーション(歯を削ること)のデッサン画の美しさなど、印象に残っていました。審美的な補綴をするためには補綴物を美しく、自然に作ることはもちろんのことですが、補綴物と周辺の歯牙に調和する歯肉を作ることが重要かつ難しいことです。今回見せていただいた症例ではその仕上がりの素晴らしさはもちろんですが、そこへ持っていく上での歯肉のコントロールが素晴らしいものでした。またそのためのプロビジョナル(仮歯)の凄さは大変なものでしたが、補綴を専門とすると称するならばこのくらいはやって欲しいという先生のメッセージは、ある意味もっともなものだと思いました。自分もまだまだ精進しなければとつくづく思わされました。

 いつも補綴学会では知り合いがいるはずで、誘って食事もしようと思っているのですが、なにせ会場もバラバラで人も多く、また多くの先生方は教室の人たち一緒ということもあり、なかなか実現しません。今回も終了したあとキョロキョロしましたが一人で帰ることになりました。線路の関係で大井町に泊まりました。

 2日目の午前中はミニシンポジウム『口腔機能の維持を主眼とした義歯の長期的管理』を聴きました。講師は東京都開業の藤井重壽先生でしたが、先生は以前読売新聞に連載された医療ルネサンスの中で義歯について取材を受けていた方です。あの記事は反響が大きかったようで、当院にも何人か患者さんがいらっしゃいました。先生は日歯大の補綴を出た方ですが、長期に経過した有床義歯の9症例を供覧されました。開業医の立場としては非常に納得のいく、共感する発表でした。午後は専門医研修会で『審美歯科におけるチームプレー、Esthetic Zoneにおける天然歯・インプラント補綴』で、講師は東京都開業の行田克則先生と(有)バーレンの小田中康裕先生(DT)でした。御二人の講演は以前にも聴いたことがありますが、前日の六人部先生とは若干異なるアプローチで、賛否相半ばするところだと思いました。

 前述のように学会ではなかなか知り合いに遭遇できないのですが、今回もいつも何故か行き会える水口教授と、顎治で一年上だった秀島先生(現、医科歯科部分床義歯)とは話をすることができました。また1月の群馬での関越支部会でにお世話になった新潟大学の先生に声をかけていただきました。(その先生によればサボらずに来ているということでしたが)新大教授で同級の魚島先生には会えませんでした。

2010年6月16日 (水)

尾関先生講演会

 去る6月6日(日)、東京医科歯科大学歯科同窓会の講演会、「インプラント治療の最先端技術を学ぼう-低侵襲インプラント-」に参加してきました。講師の尾関雅彦先生は、現在昭和大学補綴の准教授、同時に昭和大学病院インプラントセンター副所長。医科歯科大学の出身で、はじめ病理に残って学位をとった後、本学第2口腔外科で診療され、その後昭和大学の補綴に移ったという少し変わった経歴の先生です。学生の時は口腔外科にいらっしゃり、親切に指導してくださった先生だった覚えがあります。さらにインプラントを始めるにあたって最初に受けた講習も、医科歯科同窓会主催の尾関先生のコースでした。そんなわけで今回新しいシリーズの講演会なので、感謝の意味もあり参加してきました。

 近年インプラントが骨にくっついて機能するのは当然のこととなり、それに加えて審美性、即時の機能、難症例への対応など、様々な条件が要求されるようになっています。そんな中で特に審美性の要求や骨のないことによる難症例への対応に関して、骨移植を含む大がかりな手術がされるようになりました。しかし患者さんの希望としては、当然あまり切りたくない、腫れたくない、痛くない方が良い、というのは当然です。さらに最近当院でも設置したように、歯科用CTがずいぶん普及してきました。

 そんな環境の中で、最近「グラフトレス」(移殖無し)、「フラップレス」(粘膜を開かない)などの低侵襲(できるだけ切らない)のインプラント治療が言われるようになってきました。以前からとても「勇気ある」先生方の中には、全然粘膜を開かないでズブっとドリリングをしてインプラントする方もいらっしゃったようですが、ブラインド(目隠し)でやっているに等しく、重大な結果を招く可能性のある極めて危険な方法でした。しかしきちんとしたサージカルテンプレート(手術時のドリリングのガイド)とCTを使う事により、これが安全かつ確実に行える可能性が出てきました。また移植に関しても、特に臼歯部などきれいな形の歯と歯肉を求められない部位では、残っている骨を極力利用してインプラントを植立する方法が注目されてきました。今回の講演会では、日本ではかなり初期にスウェーデンのブローネマルクのもとにに留学され、インプラントに関して長いキャリアと補綴、外科双方の豊富な知識をベースに持っていらっしゃる尾関先生により、これらの総論的、一部各論的な紹介がなされ、有意義な講演でした。

 自分の臨床では、まずグラフトレス(移殖無し)に関しては自分でも短いインプラント、傾斜させたインプラント植立、普段あまり使わない部位の骨の利用など、病院のCTを使っていた当時から色々と工夫してきたつもりです。しかし特に前歯部に関しては骨の吸収が大きかったり、審美的な問題から、特に軟組織の移殖は避けられない場合が多いようです。さらにフラップレス(切らない)に関しては、まだ怖くてやったことはありません。しかし今回、既製のソフトを使わないで行う方法については、十分な検討を行って施術すれば十分使えると感じました。特に有病、あるいは比較的高齢の患者さんに関しては非常に有用であり、研究してみたいと思います。

 この日は当院の衛生士にも同じ医科歯科のCDEのコース、「プロフェッショナルな歯科衛生士をめざして―患者さんと院長先生の信頼を得る―」に参加させており、電車の時間まで少しあったので、神田明神と湯島聖堂をお参りしてから一緒に帰ってきました。

2010年6月 6日 (日)

ブラキシズム最前線

 先週に引き続き日曜日にお勉強。5月30日(日)は、東京医科歯科大学歯科同窓会CDE講演会、「ブラキシズム最前線!!-歯科治療のパラダイムシフト~力との闘い-」に行ってきました。通常この講演会は医科歯科の学内の講堂で行うのですが、今回は受講生が多数(約400名ということです)だったため会場変更となり、飯田橋駅最寄ののベルサール飯田橋ファーストというホールでした。

 ブラキシズムとは簡単に言うと「歯ぎしり」です。歯を失う主な原因はもちろん虫歯と歯周病ですが、この二つは細菌が直接の原因であることがわかっており、先進的な話としてはもはやコントロール可能ということになっています。しかしいくらこの2つを制御しても、「力」のが原因の歯の問題は起こってきます。近年虫歯と歯周病をきちんと制御出来る患者さんが多くなったわけで、にもかかわらずブラキシズムなど過大な力がかかることで破折や摩耗によって歯をダメにしてしまうことが目立ってきたというわけです。

 講師は昭和大学の補綴の馬場一美教授と、大阪大学高次脳口腔機能学講座講師の加藤隆史講師、一緒に仕事をしていらっしゃるようですが、臨床と基礎の先生方でした。馬場先生は医科歯科大学で一年下の後輩で、第一補綴(部分床義歯)に残っていてしばらく前に昭和大学に教授として出た方です。補綴学会でもブラキシズムのシンポジウムなどで、お話を聴いたことがありました。

 究極のこの日の結論から言うと、「ブラキシズムは止められない」ということでした。なかには歯ぎしりを止めることを売りにしている先生方もいらっしゃるのですが、エビデンスとしてはないということでした。率直に言うと講演の演題等から、なにか画期的な療法が示唆されるのではないかと少し期待もしていた私としては、少し外されたところがありました。また馬場先生のお話は基本的に補綴学会とうでも聴いていたので、全て新鮮というわけでもありませんでした。しかし睡眠科学やブラキシズムの病態など、基本的なことをまとめて理解できる良い機会でした。また主催者側が驚いたほど参加希望者が多かった(伊勢崎の私の知り合いの先生は、数週間前に問い合わせたら満席で断られたということでした)こと、講演終了後の質疑応答の盛り上がりからも、ブラキシズムの問題に悩んでいる先生がたくさんいることがわかりました。それは、ひとつにはこれまで虫歯や歯周病など他の問題にマスキングされていたものが近年気づかれてきたということ、そしてもしかしたらストレスフルな現代社会でブラキシズムの発症が多くなっているのか、とも思います。いずれにしても歯科疾患のひとつの見方として常に頭に入れておかなければならない事だと思います。

2010年6月 3日 (木)

高崎でのノーベル・ソリューション・セミナー

 去る5月23日(日)、ノーベルバイオケアの主催で、高崎市のビューホテルにおいて、中村社綱先生による「ソリューション・セミナー」があり、参加してきました。中村先生は最近のインプラント界においては超ビッグネームであり、高崎に呼んでくれたノーベルバイオケア群馬県担当の営業、Oさんはよくやってくれたと思います。ソリューションとは最近歯科でもよく使われるはやりの言葉で、要するに治療方法の選択ということでしょう。
 メーカーによるセミナーなので、当然のことながらノーベルバイオケアの製品を用いたインプラントの話なのですが、自分のところで使っているから贔屓目になることを減じたとしても、やはりブローネマルクを有し他とは比較にならない実績のあるメーカーなので、今日のインプラント治療の最前線の講演でありました。
 中村先生は私が言うまでもないのですが、数々の公演を聴き、症例を見る限り、とにかくまず上手です。また講演も豊富な経験と知識に裏付けされた自信に満ちたもので、お話ぶりから推測される人柄のよさも手伝っていつお聴きしても力づけられるものです。今回特に大きなトピックはなかったのですが、自分のインプラント臨床の基本的な考え方、方向は中村先生のお話と同じ方向であり、それは間違っていないであろうことが確認されたと思います。
 私がインプラントを始めてからの短い期間にも、はやりというか潮流は大きく変化してきました。たとえば最初の頃は、CTなど撮らなければできないのは素人だ、みたいな言い方をする先生もおり、伊勢崎市民病院にCT撮影を依頼したのもどうやら私が初めてだったみたいなのですが、今ではうちにもCTを入れる時代です。基本的にいろいろな方向が出尽くした感のある現在、ソリューションの原則を確認しておくことは意味があることだと思いました。
 すなわち可能な限りグラフトレス、すなわち低侵襲で補綴的な工夫で機能させる。ただし、前歯など審美的に必要な場合は骨や軟組織の増成手術を厭わない。インプラント本数は可及的に少なく。などです。ただしある種の即時荷重とフラップレスは、まだ私は自信がありません。
 地元なので会場にはよく知った顔がずいぶんあり、仲良しの先生と話が弾みました。また高崎の中心部で、市営の高松地下駐車場から少し歩いたのですが、やはり伊勢崎とは全然違った少し都会の匂いがしました。(必然的に高崎の先生方は都会的な対応を迫られるわけで、ある意味大変なのだろうなと思いました。)