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2008年5月31日 (土)

自転車操業(?)

 ここのところ義歯の患者さんが集中しています。最近あまり上下きれいな(?全く歯が無い、という意味)総義歯の患者さんが少なくなったな、と思っていたのですが、急にいくつも重なって新製することになっています。そのため、技工の仕事でかなりパニックになっているところです。
 不思議なもので同じような症例というのは重なることがおおく、総義歯がいくつか並行で進んでおり、さらにいくつか予定があります。おまけにバーアタッチメントの義歯やインプラントのプロビジョナル(仮歯)の技工やら、やりがいはあるものの面倒くさい仕事が重なっています。
 また先週から6月にかけて学会と講習会の季節(一週おきに土日出張)、オーケストラや歯科医師会の用事もあり、さらに菜園が夏野菜の植え付けやらタマネギの収穫やら・・・・。とても充実した毎日を送っています。
 技工作業は大変ではありますが、机に向かって手を動かしながらの時間は例えば散歩などの時間と同じように、いろいろと考えをめぐらせている時間でもあります。歯学部の学生や研究者が技工を自分でやるシステムになっていることもこの辺にあるのではないかとさえ思います。もっとも多く場合残念ながら、素晴らしいアイデアはひらめいてそのまま消えていってしまうのですが。

2008年5月27日 (火)

ノーベルバイオケア エステティックフォーラム2008

 きのう5月25日(日)、品川の高輪プリンスで開かれた「ノーベルバイオケア エステティックフォーラム2008」に行ってきました。ノーベルバイオケアとは世界最大のインプラントのメーカー、当院で採用しているインプラントもノーベルのシステムです。同時にプロセラという今はやりのCAD/CAMによる補綴物製作のシステムの先駆けのメーカーでもあり、インプラント、オールセラミック等による審美補綴をターゲットにしたフォーラムです。

 数多くの有名な講師を招いて小講演とディスカッションみたいな形式でいくつかのテーマに関して贅沢に行なわれたフォーラムでしたが、ライブオペとかの派手なパフォーマンスは無く各セッションのテーマもタイムリーかつ堅実なもので、とてもよい催しでした。参加者は2500人ということで、なかなか行っているはずの知り合いにも行き会えず、また座っているのが結構疲れました。

 それにしても一流というかインプラントの王道を行く企業らしく、ノーベルバイオケアは大学等のきちんとした先生方をパートナーにしてきつつあると感じました。母校のインプラント科の春日井教授をはじめ、今回は歯周病の和泉教授や愛知の野口教授、また補綴学会で活躍されている先生など、私の知っている顔がずいぶんあって信頼感がありました。

 また、今回プロセラの技工物のコンテストがあって、昼にその表彰式があったのですが、高崎のカナイナビデント(技工所)の金井浩之さんが、最優秀賞を授与されていました。実はつい先日当院もプロセラのインプラントブリッジと、オールセラミックスクラウン(ジルコニア)を作ってもらったばかりで、私事のように嬉しく思いました。おめでとうございます。それにしてもできてきた補綴物の美しさというかリアルさは本当に驚くほどで、また知識も豊富でこちらも非常に勉強させてもらいました。自分の臨床もこのような時は非常に緊張感が増します。これからもよろしくお願いします、という感じです。

2008年5月 5日 (月)

AED

Dsc_0016 ちょっと前の話になりますが、去る3月19日より、当院もAEDを設置いたしました。今年4月の保険の改定で「歯科外来診療環境体制加算」という項目が創設され、それを請求する施設基準のひとつにAEDの設置があります。だいぶ以前からAEDは必要と考え、AEDを使った救命救急の研修なども受けてきたのですが、如何せん安い物ではなく、またなかなか価格も下がらないため躊躇していたのです。それを今回の改訂によって背中を押してもらったという感じです。もちろん絶対に使用するような状況には陥りたくありませんが、いざという時はできるだけのことができる体制を備えておきたいと思っています。AEDはセコムによるレンタル品ですが、設置当日スタッフの月例ミーティングの時間を利用して実習を行ないました。

総義歯のつくりかた3

 さて、型を取ったら次にやることはかみ合わせの記録です。これを「咬合採得」といいます。すなわち咬んだ時の上下の顎の正しい位置関係を記録することです。残っている歯がある程度多い補綴物ならば、そのかみ合わせによって上下の顎はきちんと位置が決まります。しかしながら歯の数が減ってくると、だんだんと不安定になってくるのです。総義歯の場合は上下の顎の位置関係が不定であるのみならず、その空間中のどの位置に歯を並べたらよいかも全く自由になってしまいます。

 そこで何かを目安にして歯並びと咬み合わせの位置を決めることになります。現在使っている義歯があればそれを目安にするのが最も安全な方法です。それが叶わない場合は、口腔内の解剖学的な目印、唇の周りの張り具合、顔の長さ、患者さんの感覚などを目安にします。

 この咬合採得は、印象以上に患者さんの動きや感覚に左右されることが大きいため、難しいステップです。咬み合わせの高さ、すなわちどの程度上下の顎を近づけたときに歯があたるようにするかは、非常にあいまいです。したがって患者さんの許容範囲も比較的大きいのですが、それも個人差が大きく大変難しい場合もあります。左右前後の位置関係は結構シビアな範囲に収めなければいけないのですが、患者さんに顎を動かしてもらう作業なので、やはり狂いやすいといえます。

 そこでもうひとつの作業を加えます。それはゴシックアーチトレーシングという方法で、ちょっとした装置を用いて顎の運動を記録し、咬み合わせの位置を決めます。教科書的にはひとつのステップとして載っているものの、なかなか実施している先生は少ないようです。しかし私はこれが結構「キモ」だと思っており、患者さんに1回多く来て貰わなければならないものの、必ず行なうようにしています。

 よく言われることですが、印象採得と咬合採得が正しいことは補綴物を作るために必須な2条件です。しかし総義歯の場合はいずれもある程度のあいまいさが付き纏います。そんな中で敢えてどちらがより重要かと言われれば、咬合の方だとされます。咬合がきちんとしている義歯はだんだん合ってくるが、印象がよくても咬合がダメだとだんだん合わなくなってくると言われています。

2008年5月 4日 (日)

総義歯のつくりかた2

 新年度の忙しさ等にかまけて続きが遅れてしまいました。さて、具体的に総義歯の作り方の大変さ等をボチボチ書いていきたいと思います。

 何となくお分かりと思いますが、総義歯に限らず何かの補綴物を作るときはまず「型取り」をします。この「型」のことを「印象」、型をとる事を「印象採得」といいます。総義歯の印象採得では、歯のない顎の形をとることになります。歯が無い顎の部分は内部に骨があり、その表面を筋肉や腱、唾液腺と粘膜が覆っています。その一部は骨に固く結びついていますが、外側に移るにしたがって頬や舌の粘膜となり柔らかくて動く様になっています。そのため型を取るといってもとり方によってどのような形にも変わってしまいます。ですから総義歯の場合の印象採得は型を「作る」と言った方がふさわしい作業です。

 実際にはまず普通の型取り材で概形を取ります。この概形から起こした石膏模型をよく見て個人トレーという印象するための「お皿」を作り、それを使って精密印象を取ります。このトレーを実際に口の中に入れ、噛んだり口をすぼめたり舌を出したり運動をさせ、長いところは削り短いところは足して、形を作ります。そこに細かいところまで再現できる型取り材を流して、精密な印象を取るのです。

 この時、ひとつは口腔の機能運動によって動いてしまう部分を避けるように、形を小さくしたい方向があります。もうひとつは義歯と顎との間に空気が入らないで義歯が吸着するように、また噛み合わせの力をできるだけ広く分散させるために、形を大きくしたい方向があります。
この相反する二つの方向の釣り合う点、妥協点を目指して形を作ることになります。その際に必要なのがわれわれの解剖学の知識、患者さんの運動の誘導の仕方、そして正しい義歯の形のイメージなのです。

 このようにしてとった印象から、石膏の模型を作ります。これが技工操作で義歯を作っていくベースになります。しかしながら患者さんの顎は柔らかい粘膜でできており、さらに場所によって粘膜の厚みも異なるため硬さもまちまちです。いっぽう模型は均一に硬い石膏でできています。また実際は顎の粘膜は動く部分もあるわけで、形態としてもある一瞬の状態が再現されているにすぎません。この辺が完成した義歯を装着した時に問題となるところのひとつであり、難しいところです。

 

総義歯のつくりかた1

 さて、前記のように難しい事をやっている総義歯ですが、どのように作っていくのでしょう。というか、どのように作っていったらうまくいくのでしょうか。作った入れ歯が合わなくて、困っている患者さんがたくさんいるという現実を踏まえての話です。

 これを考える上でまずひとつ。私たちの業界でよく言われることですが、総義歯に限らずその道の「名人」といわれる先生がいらっしゃいます。またよく「教科書どおりにやったのではダメだ、臨床は全然違う」という先生もいます。私自身で名人の腕を見た事があるわけではないし、おそらく「黙って座ればピタリとあたる」ような神秘的に見える技を持つ先生もいらっしゃるのでしょう。しかし私たちが行なっているのは「医療」です。ある程度勉強して教科書、マニュアルに沿って施術すればソコソコ合格点の結果が得られなければ「医療」として社会的にあまり意味を持たないと思います。

 しかしまず、果たして多くの先生方がまず「教科書どおり」のことをやっているのでしょうか。義歯は、特に細かい手の動きとか眼の良さ等の精密な事、器用な事が要求されるわけではなく、口の中の解剖学や咬合や材料などの知識が備わっている事が大事なのです。
 その上でこれに矛盾するような話ですが、医療には「アート」の部分が欠かせません。義歯の型を取ったり歯を並べたり歯肉の形を作るときに、何となく正しい、おかしいを判断できる眼がなくてはいけない部分があります。これらの一見矛盾する事は、総義歯に限らず歯科医療の特に「補綴」の部分で要求されると思います。