2011年2月12日 (土)

開院50年

 さて、すでに旧聞になってしまいましたが、昨年(2010年)11月1日、荒木田歯科医院は開院50年になりました。一時はパーティでもやろうかとも考えたのですが、忙しさにかまけてその計画もしなかったところ、ほんとうに嬉しいことに従業員から大きな花束をもらいました。待合室にそのまま飾るのもちょっと大げさだったので、創立者である両親の方にあげました。そこから少しずつ、待合室の生花にしてくれました。パーティの代わりと言っては非常にささやかですが、例年夏の暑気払いにお好み焼き屋(わが伊勢崎市の有名店、「欅」)に行っていたのが今年は諸事情で延び延びになっていたので、そこで宴会を行いました。

 私の父方の祖父は八戸から出てきた人で、戦前は県庁で土木関係の仕事をしていました。そのため太田、高崎、伊勢崎など度々引っ越していたようで、父も高崎高校を卒業しています。身内に医療関係の人はいなかったようですが、父は東京医科歯科大学に入学し、同期生には補綴の内山先生、長谷川先生、松本先生、保存の河野先生、歯周病の川崎先生等ご活躍された先生がいました。卒業後すぐに伊勢崎に戻り、栗原歯科医院に勤務しました。その2年後に伊勢崎市平和町で開業しました。

 昔の歯科医院といえば、国民皆保険が始まり、また戦後の虫歯の洪水で、朝暗いうちから玄関前に並ぶという現在とは全く異なった状況が思い浮かばれます。しかし開業した当初はそのバブルの直前だった様で、昼間から技工所へ遊びに行ったりしていたということです。

 やがてすぐに患者さんが押し寄せるような時代になりましたが、当時はうちより北のほうに歯科医院がなく、校医だった赤堀小学校から健診後にバスで児童を連れてきたことなどもあったようです。私の覚えている旧診療室は、一部座敷になっている広い待合室に患者さんが沢山おり、いつも子供の泣き声やタービンの音が聞こえていました。また技工士さんや住み込みの見習いのお兄さんもいて、技工室で遊んでもらったこともなんとなく覚えています。

 父は当時珍しかった時間の予約制や、先進的な医療技術などを積極的に取り入れてようとしていたようですが、如何せん患者さんの数が多くなかなかゆっくりとした診療を行う環境ではなかったようです。私が高校に上がる年にこの旧診療室を取り壊し、現在の建物を作りました。私も高校時代は反抗して理学部志望でしたが、結局父の母校の東京医科歯科に入学し、その後6年大学に残った後にこちらに帰ってきました。1年後に建物の中身を改築し、現在の診療室になっています。新しい診療室だと思っていましたが、ふと気がつくと現在の診療室が約20年と一番長い事になっていました。

 毎日あたふたと仕事をしてきたせいか、20年前もほんの最近のようですが、当時はブラッシング指導をしてもなかなか患者さんの関心も高まらず、始めたリコール率も低く、診療室も滅菌体制や医療安全体制など、ずいぶん現在とは違っていました。市内の歯科医院数も当時の倍以上になっており、患者さんの数もしばらく前までずいぶん減少しました。そんな中で診療体制、内容とも勉強とともに改善し、また自らの治療の技量も経験と訓練で上げて来たつもりです。おかげさまで数年前より患者さんの数も上昇に転じ、逆にご迷惑をおかけしているかも知れません。

 これからもそろそろ歳と共にキツクなってきた体にむち打ち、診療の体制、内容、技量ともに切磋琢磨していくつもりでいます。よろしくお願いします。

2011年2月11日 (金)

CTの威力 その3

 CTによって、口腔外科的な疾患の確定を行うことももちろんあります。というか我々開業医の立場としては、大学病院等の口腔外科専門医へ送るべきかどうかの確定と、さらに患者さんへの説明に用いることができますFukasawa2

 患者さんは下顎の総義歯が合わなくなったということで来院したのですが、どう見ても通常の「合わない」状態ではありませんでした。通常のパノラマX線写真(左)でも不明瞭な不透過像が下顎骨に見られたのですが、Fukasawa2917_0903000 CT(右)を撮影してみると明らかな病変とその広がりが分かり、囊胞性の病変だろうと診断されます。患者さんにも画像を見て頂いて納得してもらい、病院歯科口腔外科に紹介しましたが、やはり下顎囊胞ということで治療されました。

 またこの患者さんは、痛みはないものの上顎の大臼歯部(歯の欠損部)が腫れ、膿が出たとSaegusa1 いうことで、内科を受診したあとに来院されました。かなり以前に蓄膿の手術をしたということで、術後性頬部嚢胞が疑われましたが、CTを撮影してみるとやはり上顎洞に異常が認められました。かつての蓄膿症の手術(上顎洞根治手術)あとになって骨の中に嚢胞ができる事が多いのです。特にこの患者さんの場合、上顎洞頬側の骨が一部消失してしまっており(写真右)、そこから内容物が口腔内に漏れでてきたのではと推測されました。近所の耳鼻科の先生にCTを見て頂き、治療を依頼しました。

 ところで根管治療(根の治療)のためにCTの撮影を重ねてくると、上顎の歯に関してこれまTakeda2 で考えていたよりずっと多く、上顎洞に影響を及ぼしている(様に見える)歯が多いということに驚いています。もちろん以前から教科書的な常識としても、上顎臼歯は根尖(歯の根の先端部)が上顎洞(右の写真で黒く見えるところ、頬部の骨の中の空洞で、鼻の奥につながっており、蓄膿症の時に膿がたまる)に近い場合が多いことはわかっていました。また右のように根尖と上顎洞の間がほとんど接している場合もあり、抜歯によって穿孔(穴があいてしまう)したり歯性上顎洞炎といって歯髄の感染が原因の副鼻腔炎(蓄膿など)が起こることも承知していました。しかしながら右の写真のように症状がなくても上顎洞の粘膜が肥厚していたり、何らかの炎症の徴候が見られる場合が非常に多いことを実感しています。この写真のように非常に接している場合のみならず、根尖と上顎洞の間にある程度骨がある場合でも見られます。

 このような症状のない上顎洞粘膜の兆候はどうするべきか、積極的に歯の治療を行ってさらに粘膜の状態を観察するべきなのか、等これから研究していくべき問題だと思います。CTによって様々な病変が、今までに比べて手に取るように分かる場合がある、今まで見えなかったものが見える場合がある事を運用1年で実感しています。見えれば即治療できるかといえば、それは必ずしも言えませんが、何よりもまず「見える」ことは治療の最初の一歩であると思います。これからも必要に応じて積極的にCTを活用していきたいと思います。

2011年1月19日 (水)

CTの威力 その2

 歯科CTといえばインプラントの診断がすぐに思い浮かばれますが、それ以外にも非常に活用でき、大きな威力を発揮します。残念ながら解像度、すなわち画像の細かさは通常のレントゲン、なかでも銀塩フィルムには到底及びませんが、自由な方向から見られる、自由な断面でカットできる、3D表示で実感的に見られる、などの特性でYonemoto1見られなかったものが見れます。

 例えば埋伏智歯、すなわち骨に埋まっている親知らずが、下顎管という太い神経・血管の通り道に近接している場合があります。このような親知らずを抜歯しなければならない場合、平面的なレントゲンでは重なってしまうためにどのような位置関係にあるか実態が分からない場合があります。

 この時、CT撮影によって実際に近接しているのか、それとも離れているのか、また立体的にはどのような位置関係にあるか、等を見ることができます。左の症例では通常のレントゲンでは親知らずの紫根と下顎管が重なっているように見えましたが、実際は立体的に離れていました。さらに位置関係が3次元的に把握できたことから、安全かつ手際良く抜歯することができました。Kozima1a_3

 通常の根尖病巣の見え方もだいぶ異なります。同じ歯の、左は通常のレントゲン、右はCTによる断層像です。通常のレントゲンでも病巣の存在は見えますが、CTによる画像でより確実に見ることができます。特に複数の根がある歯では、通常のレントゲンでは根が重なって見えてしまKozima4074_3210136うため、ワケがわからないことがあります。CT像ではこれが分離して見られるため、はっきりと分かる場合があります。さらに病巣の広がりも、立体的に把握することができ、根管からのアプローチ、外科的なアプローチいずれにおいても非常に役に立ちます。

 

 

2011年1月10日 (月)

CTの威力 その1

 一昨年の11月1日に念願の歯科用コーンビームCTを購入、設置し速報記事を書きましたが、それから早くも1年余りが経ちました。正直大変高価な買い物でしたが、その威力は絶大です。外科系である歯科医療には「見える」ことは非常に重要であり、これまでの通常のレントゲンでは見えなかった部分が如何に多かったということを感じています。

 まずはインプラント治療に関して。それ以前も多くの症例で市民病院にCT撮影を依頼していましたが、医科用のヘリカルCTでは解像度が不十分、被爆量が大きい、Gotoh1aGotoh5撮り直しができないなどの問題がありました。したがって、手術後の確認や予後の評価などの撮影は不可能でした。CTを入れたことで、これらの問題が解決しました。当院でインプラント治療を始めた5年ほど前はCTを撮ることさえもインプラントの初心者で慣れていないからだ、という風潮さえありました。しかしちょうどインプラント計画用のシミュレーターソフトの後発品で比較的廉価なものが出始め、また医科用のCTをパソコン上で見るためのフリーのビューワーが出回ったりし始めたこともあり、私もどこで撮ってくれるのかを探して伊勢崎市民病院に依頼する筋道を作ったりして、必要な患者さんでは積極的に撮影を依頼していました。この期間においていろいろCT画像の扱いに慣れたことで、自院に入れたときにスムーズに使うことができました。

 インプラントを取り巻く環境はここ3年、5年と非常に変化が早く、現在ではむしろCT撮影をしないインプラント治療はあり得ないという風潮になっているようです。前述のように手術後や予後の評価のことを考えると、自院のCT設置も常識になってくると思います。

2010年9月11日 (土)

歯科小手術

 最近、歯根端切除術などの歯科小手術を行う頻度が高くなっています。通常、歯を保存する処置としては歯冠(歯)の方からアプローチして根管治療や歯周治療-いわゆる根の治療や歯石の除去など-を行ないます。すなわち歯根の中のかつて神経の入っていた空洞を清掃し、消毒してきれいに詰める、あるいはポケットの中の歯根の表面の歯石を除去したり、消毒や貼薬Photo_2 を行う、などです。

 多くの場合はこれによって解決するのですが、どうしても歯肉からの膿が止まらない、腫れが退かない、等の場合があります。その際、歯根端切除術(根管由来の病巣の場合)、歯周外科手術(歯槽膿漏の場合)などの手術が有効である場合があります。

 歯根端切除術とは、根の先に根尖病巣という治りにくい膿胞、肉牙腫などがある場合に行ないます。歯肉を切開して歯肉弁を翻転すると、多くの場合歯を支える骨の根尖部分に穴があいています。その内部の組織、内面の組織を掻爬し、さらに歯根の先端部を削りおとします。さらにその切断面から根の先の根管を詰める(逆根充)を行って、歯根に染み込んでいる細菌や病原性物質を除去、遮断します。きれいに洗浄して歯肉を戻し、縫合します。

 歯周外科手術とは、歯周病に罹患した歯の周りの歯肉や骨の形態を改善したり、組織を再生したりするための手術です。基本はフラップオペレーションといい、Photo_5 歯肉を切開して歯肉弁を翻転、根面と骨の欠損を明視下にし、根面から歯石などの汚染物質、ポケット内の不良肉芽組織などを除去して、フラップを戻します。これを基本として、手術の目的によってフラップを戻す位置を変えたり、歯肉を移植したり、歯周組織の再生のための材料を入れたりします。

 これ以外にも囊胞の摘出や骨内の異物の除去など様々な小手術がありますが、要するに「よく分からない場合、直視して解決しよう」ということが大きいと思います。なかなか治らないポケットを開いてみると、歯根の表面に亀裂が入っていたり、根尖病巣が立体的に広がっていたりする場合などが、多くあります。必要性が大きな歯の場合、いきなり抜歯するよりも(ダメもとでも)手術により改善されればということがあります。

 私は補綴系であるため、大学にいたときには特に手術的なトレーニングをうけたわけではありませんが、その必要性はずっと理解しており開業後も独学的に比較的抵抗なく小手術は手がけてきたつもりです。しかし近年インプラントを行うようになってから、オペに対する抵抗はさらになくなりました。様々なインスツルメントや機器、オペのシステムを確立出来たせいもあると思います。また昨年設置したCTを使うことによって、あらかじめかなり正確に病態や手術法を予測することができるようになりました。

 患者さん側にも手術というと抵抗のある方がいらっしゃいます。確かに口腔も顔面の一部であり、感覚も鋭敏なところなので、恐れを感じる方は多いと思います。しかしながらちょっとした手術によって非常に大事な歯を残すことができる場合があります。私もより安心、安全確実な治療を心がけようと思っています。

2010年9月 8日 (水)

8月の報告

 今日(9月8日)は台風の影響で、本当にほんとうに久しぶりの雨でした。若干蒸し暑いものの、やはり本当に久しぶりに猛暑日からも開放されました。8月は長いながい、飽きあきする連日の暑さでしたが、夏休みの旅行と、何度か東京などに勉強に出かけてまいりました。

 8月8日(日)には、東京国際フォーラムで「Er-YAGレーザー臨床研究会」の大会がありました。レーザーにもいろいろありますが、当院で使用しているエルビウム・ヤグレーザーの使用者、特にモリタのアーウィンの使用者のための学会です。今年は4月に歯周病関係の使用法が健康保険の適応になったため、歯周病の話題が主でした。当院でも歯周病の手術の時の使用を考えていきたいと思っています。

 8月21・22日(土・日)には、品川のホテルでノーベルバイオケア・シンポジウム・アジア・パシフィック 2010がありました。夏休み直後で休日の並びが悪いため、私は日曜日のみ参加しました。メーカーによる集会なので、まあ1年に1度のお祭りみたいなものですが、さすがにインプラントのリーディングカンパニーであるノーベルだけあって、演者も国内、外国共に有名所がずらりと並びました。主催者側の発表で2500人くらいの参加があったということです。細かい情報でいろいろと有用な知識の取得はありましたが、ある意味安心したことには自分の経験で考えているインプラント治療のスタンダートは、大きな流れにほぼ一致しているなということを再認識できました。

 8月26日(木)には、群馬県歯科医師会館で群馬県歯科医学会の公開講座、シリーズの3回目、「歯科心身症患者の診断と対応の実際」北海道医療大学の安彦善裕教授の講演がありました。3回目はまとめ的に、実際に精神疾患のカテゴリーには入らない様々な歯科心身症の患者さんへの治療的な対応についてお話がありました。

 8月28・29日(土・日)は、土曜半ドンにして伊香保に、大学の群馬県同窓会の集まりがありました。もはや全く少数派のわが同窓会で、さらに参加する人は少ないので寂しいのですが、やはり気のおけない仲間という感じで楽しいひとときを過ごしてきました。

 8月13~17の夏休みについては別の機会に。

2010年8月11日 (水)

2010年7月の報告

 また更新をサボっていますが、とりあえず先月の報告を。

 7月4日(日) 東京医科歯科大学歯科同窓会C.D.E.講演会(@東京医科歯科大)「鈴木哲也のパーフェクトコンプリートデンチャーⅡ―これまでの常識を打破する戦略」  岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座教授  鈴木 哲也 先生    鈴木先生は私が在学当時、医科歯科の第3補綴(総義歯)にいらっしゃった先生で、当時より臨床の上手さで有名だった方です。数年前に松風での2日間のコースに参加しましたが、非常に納得出来る考え方、臨床の感覚を持っていらっしゃる先生で、講演内容がストンと収まる気持ちのいい講演でした。もっともそれはある程度同窓としての共通項があるからかもしれませんが。

 7月8日(木) 平成22年度 伊勢崎佐波歯科医師会学術講演会(@クレインパーク山楽荘)「インプラント治療、成功の秘訣 ―口腔インプラントと日常臨床―」 明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野1教授  嶋田 淳 先生   嶋田先生はインプラントについて盛んに講演していらっしゃる有名な先生です。若干基本的な知っていることが主だったのですが、基礎的な知識の整理に有用な講演会でした。

 7月10日(土) 平成22年度 第1回歯科医療安全研修会(@県歯科医師会館) 「いま求められる安心・安全な歯科医療」 東京歯科大学歯学科麻酔学講座主任教授 一戸 達也 先生  医療安全の研修は診療所の義務として定期的に行うことになっています。決まりとしてやらなければならないだけではなく、改めて研修するとずいぶん忘れたり誤解していることがあることが分かります。今回も医療安全対策指針等の事、薬品について、不整脈のことなど、改めて勉強になりました。                

 7月29日(木) 平成22年度 群馬県歯科医学会公開講座 歯科心身医学の基礎と臨床 全3回中の第2回(@県歯科医師会館) 「精神疾患・心身症患者への歯科外来での注意点」 北海道大学教授 安彦善裕先生 シリーズの第2回で、様々な精神疾患患者の特徴と歯科外来との関わりが話されました。

 今年の7月は特に後半、暑うございました。こんな陽気の中来院してくださる患者さんにある意味非常に感謝します。遊び的には連休に日帰りで尾瀬沼に行ってきました。しばらくぶりでしたが、以前とっても嫌だった林道歩きが木がこんもりとし、少し快適な道になっていたようです。沼ではワタスゲとニッコウキスゲの両立で良かったです。

2010年7月31日 (土)

カロナールについて説明会

 去る6月23日、水曜日の診療が終わったあと、当伊勢崎佐波歯科医師会医療管理委員会主催で、カロナールについての勉強会が行われました。もはや新聞記事になってしまったので書いてしまいますが、桐生歯科医師会の休日診療で、投与したロキソニンによるアスピリン喘息の疑いで亡くなった方がおり、訴訟になってしまう事になりました。それを受けて、今回「歯科疼痛管理におけるアセトアミノフェン」という演題で昭和薬品化工株式会社の小林義則氏に話していただくことになりました。
 昭和は、昔から歯科の痛み止めとして多く使われている「カロナール」のメーカーです。前述のアスピリン喘息とは、現在歯科のみならず一般的に使われている酸性NSAIDs、非ステロイド性抗炎症剤のことで、その作用機序から一部の人に激しい喘息を起こすことがあります。喘息というと一般的には苦しいだけで大したことないという感覚が多いと思いますが、高齢者で喘息の発作でなくなる方はけっこう多いのです。
 歯科では急性の痛みに鎮痛剤を使わなければならないことは頻繁にあります。その際、喘息の既往のある患者さんへの処方は慎重にならなければなりません。カロナール等のアセトアミノフェン製剤はそれに対し比較的安全と言われていますが、効きが悪いことが問題点です。講演ではその特性と効果的な使い方について、メーカーサイドではありますが丁寧な説明をしてもらいました。
 私たち医療管理委員会は医療安全の仕事も兼ねていますが、一昨年のインフルエンザの講演会など、タイムリーに必要な話題について研修を行っています。様々な問題は降りかかってこなければもっとも良いのですが、知識として分かっていることは非常に大切だと思います。

2010年6月29日 (火)

補綴学会2010

 先週6月12日(土)は休診にし、補綴学会に行ってきました。今年は日本歯科大学の主幹で、東京ビックサイトでの開催でした。朝から新幹線で東京へ、京葉、りんかい線で会場に向かいました。
 補綴学会は近年、一般の口演発表の占める割合は少なくなり、シンポジウムや特別講演などの時間割が多くなっています。一般講演はポスター発表が多くの数でなされています。今年も土曜の午前中は主に一般の口演でしたが、あとは聴こうと思えばずっとシンポジウムなどをはしごできましたが、どうも聴きたいものが重なっていたりうまいこと配分されていない感じでした。以下、印象に残った講演について。

 一日目午前中の一般口演では、有床義歯などのセッションを聴いていました。私が大学にいた頃からの研究テーマと同じようなことが相変わらず行われていたりとか、どうかなと思う発表もありましたが、臨床的にこれから価値が認められていくだろうと思われる発表もありました。印象に残ったひとつは愛院大の「3次元形状計測装置および3次元造型法を用いたエピテーゼ製作法について」で、顔面補綴におけるCAD-CAMの応用について知ることができました。

 午後はメインシンポジウムⅠ、Ⅱの『咬合・咀嚼が生体に及ぼす影響を考える』も非常に興味があったのですが、どうしようと迷った挙句その裏を聴きました。臨床スキルアップセミナー『全部床義歯を再考する』では、まず医科歯科の全部床の水口教授が「印象採得時に考慮すべきこと」として伝統的な(?)個人トレーとコンパウンドによる筋形成による行う印象時の細かいノウハウについて、話されました。特に下顎の印象については、最近それを売りにしている講演や研修も多い中で、非常に(私にとっては)オーソドックスな方法での整理されたお話で、あらためて聴くとストンと納得するものでした。また鶴見の大久保先生による「RemodelingからPiezographyへ」は昔からある人工歯を配列する位置を決めるニュートラルゾーンという考え方を実現する方法として、興味あるものでした。特に水口先生は、私の大学時代のサークル(お茶の水管弦楽団、という大学オケ)の2年先輩で仲良し(?)であり、是非一度聴いておきたいことだったので、良い機会でした。その後は臨床シンポジウムⅡ『ジルコニアセラミックス修復による審美補綴歯科治療成功の鍵』を聴きました。むとべDCの六人部慶彦先生と、(株)カスプデンタルサプライの山田和伸先生(DT)による講演でした。六人部先生は先生が阪大在籍時の何年か前の補綴学会で、業者によるランチョンセミナーでの形成に関する講演を聴いたことがありました。その時の症例の美しさや、ご自分で書かれたプレパレーション(歯を削ること)のデッサン画の美しさなど、印象に残っていました。審美的な補綴をするためには補綴物を美しく、自然に作ることはもちろんのことですが、補綴物と周辺の歯牙に調和する歯肉を作ることが重要かつ難しいことです。今回見せていただいた症例ではその仕上がりの素晴らしさはもちろんですが、そこへ持っていく上での歯肉のコントロールが素晴らしいものでした。またそのためのプロビジョナル(仮歯)の凄さは大変なものでしたが、補綴を専門とすると称するならばこのくらいはやって欲しいという先生のメッセージは、ある意味もっともなものだと思いました。自分もまだまだ精進しなければとつくづく思わされました。

 いつも補綴学会では知り合いがいるはずで、誘って食事もしようと思っているのですが、なにせ会場もバラバラで人も多く、また多くの先生方は教室の人たち一緒ということもあり、なかなか実現しません。今回も終了したあとキョロキョロしましたが一人で帰ることになりました。線路の関係で大井町に泊まりました。

 2日目の午前中はミニシンポジウム『口腔機能の維持を主眼とした義歯の長期的管理』を聴きました。講師は東京都開業の藤井重壽先生でしたが、先生は以前読売新聞に連載された医療ルネサンスの中で義歯について取材を受けていた方です。あの記事は反響が大きかったようで、当院にも何人か患者さんがいらっしゃいました。先生は日歯大の補綴を出た方ですが、長期に経過した有床義歯の9症例を供覧されました。開業医の立場としては非常に納得のいく、共感する発表でした。午後は専門医研修会で『審美歯科におけるチームプレー、Esthetic Zoneにおける天然歯・インプラント補綴』で、講師は東京都開業の行田克則先生と(有)バーレンの小田中康裕先生(DT)でした。御二人の講演は以前にも聴いたことがありますが、前日の六人部先生とは若干異なるアプローチで、賛否相半ばするところだと思いました。

 前述のように学会ではなかなか知り合いに遭遇できないのですが、今回もいつも何故か行き会える水口教授と、顎治で一年上だった秀島先生(現、医科歯科部分床義歯)とは話をすることができました。また1月の群馬での関越支部会でにお世話になった新潟大学の先生に声をかけていただきました。(その先生によればサボらずに来ているということでしたが)新大教授で同級の魚島先生には会えませんでした。

2010年6月16日 (水)

尾関先生講演会

 去る6月6日(日)、東京医科歯科大学歯科同窓会の講演会、「インプラント治療の最先端技術を学ぼう-低侵襲インプラント-」に参加してきました。講師の尾関雅彦先生は、現在昭和大学補綴の准教授、同時に昭和大学病院インプラントセンター副所長。医科歯科大学の出身で、はじめ病理に残って学位をとった後、本学第2口腔外科で診療され、その後昭和大学の補綴に移ったという少し変わった経歴の先生です。学生の時は口腔外科にいらっしゃり、親切に指導してくださった先生だった覚えがあります。さらにインプラントを始めるにあたって最初に受けた講習も、医科歯科同窓会主催の尾関先生のコースでした。そんなわけで今回新しいシリーズの講演会なので、感謝の意味もあり参加してきました。

 近年インプラントが骨にくっついて機能するのは当然のこととなり、それに加えて審美性、即時の機能、難症例への対応など、様々な条件が要求されるようになっています。そんな中で特に審美性の要求や骨のないことによる難症例への対応に関して、骨移植を含む大がかりな手術がされるようになりました。しかし患者さんの希望としては、当然あまり切りたくない、腫れたくない、痛くない方が良い、というのは当然です。さらに最近当院でも設置したように、歯科用CTがずいぶん普及してきました。

 そんな環境の中で、最近「グラフトレス」(移殖無し)、「フラップレス」(粘膜を開かない)などの低侵襲(できるだけ切らない)のインプラント治療が言われるようになってきました。以前からとても「勇気ある」先生方の中には、全然粘膜を開かないでズブっとドリリングをしてインプラントする方もいらっしゃったようですが、ブラインド(目隠し)でやっているに等しく、重大な結果を招く可能性のある極めて危険な方法でした。しかしきちんとしたサージカルテンプレート(手術時のドリリングのガイド)とCTを使う事により、これが安全かつ確実に行える可能性が出てきました。また移植に関しても、特に臼歯部などきれいな形の歯と歯肉を求められない部位では、残っている骨を極力利用してインプラントを植立する方法が注目されてきました。今回の講演会では、日本ではかなり初期にスウェーデンのブローネマルクのもとにに留学され、インプラントに関して長いキャリアと補綴、外科双方の豊富な知識をベースに持っていらっしゃる尾関先生により、これらの総論的、一部各論的な紹介がなされ、有意義な講演でした。

 自分の臨床では、まずグラフトレス(移殖無し)に関しては自分でも短いインプラント、傾斜させたインプラント植立、普段あまり使わない部位の骨の利用など、病院のCTを使っていた当時から色々と工夫してきたつもりです。しかし特に前歯部に関しては骨の吸収が大きかったり、審美的な問題から、特に軟組織の移殖は避けられない場合が多いようです。さらにフラップレス(切らない)に関しては、まだ怖くてやったことはありません。しかし今回、既製のソフトを使わないで行う方法については、十分な検討を行って施術すれば十分使えると感じました。特に有病、あるいは比較的高齢の患者さんに関しては非常に有用であり、研究してみたいと思います。

 この日は当院の衛生士にも同じ医科歯科のCDEのコース、「プロフェッショナルな歯科衛生士をめざして―患者さんと院長先生の信頼を得る―」に参加させており、電車の時間まで少しあったので、神田明神と湯島聖堂をお参りしてから一緒に帰ってきました。