2009年1月12日 (月)

総合力のパーシャル その1

はじめに・・・

  「パーシャル」とは部分的という意味ですが、歯科においてはふつう部分床義歯といっていわゆる「部分入れ歯」のことを意味しています。今年はこれからしばらく、このテーマについて書いていこうと思います。

 部分入れ歯を入れる治療の対象となるのは、歯の本数から言えば歯が「1本なくなった」状態から歯が「1本しかない」状態まで、(つまり上下それぞれ1~13本)13通りです。しかし歯の配置を考えると、ほとんど数え切れないくらいの種類となります。当然それぞれの状態で望ましい解決法も異なります。

 さらに、歯の形や状態、すなわち大きさ、膨らみ、虫歯の有無、冠を被せたり詰めたりしていないか、歯茎が下がっているか否か、グラグラしていないか、等々による違いがあり、また歯のない部分(「顎提」といいます)の形、広さ、粘膜の厚さや硬さ、等々による違いがあり、要するに非常にヴァリエーションに富んでいるということです。

 いずれにしても「パーシャル」の難しいところは、対象とするのが歯と顎提の両方であり、補綴装置にかかる咬み合わせ等の力を、全然性質の異なる両者にうまく配分しなければならないところにあります。さらにただ装着した時点で良いだけでなく、長期的にもできるだけ歯にも顎提にも害がない、すなわち長持ちするようにしなければならないのです。

 そんなわけで、きちんとした「パーシャル」を入れるためには、まず歯や歯周組織の前処置としての治療、すなわち虫歯の治療、歯の根の治療、歯周病の治療、冠やブリッジの治療、などがきちんとできなければならない。そして適切な補綴物の設計が出来なければならず、さらにその長期的な維持が出来なければならないのです。

 最も、ただ入れるだけだったら歯も削らない、パッと型を取って残っている歯にバネをかけて作れば総義歯と違って落ちることはない、嫌ならすぐに外せる、ので一番お気楽な治療にもなり得ます。患者さんの状況や要求によっては、その様な特性を活かして簡単に作ることも出来るのです。しかしいつでもそんな入れ歯では困るし、患者さんの高度な要求にはこたえることが出来ません。

2009年1月 2日 (金)

2009年のご挨拶

 明けましておめでとうございます。さて、多忙にかこつけて昨年秋からずいぶん更新をサボってしまいましたが、お正月からから心機一転、記事を書いていきたいと思います。

 今回は賀状に書いたことの一部を、今年の私の心構えとして再掲させていただきたいと思います。Photo

「未曾有の経済危機、上場企業の倒産、失業者の増加、トヨタなど超優良企業の低迷、等々、きわめて深刻な不景気のニュースをテレビで毎日聞かない日はありません。また平成「20年」の終わりということから、この間のバブルとその崩壊、格差社会への変化について振り返る番組が流されています。//そんな中でつくづく思うのは、わが歯科界では私達が卒業した20数年前からずっと右肩下がり。バブリーな話にも縁がなかったが、その代わり「堕ちていく」状況には慣れっこになってしまい、打たれ強くなっているということです。//ますます厳しい情勢になりそうな今年、どんな荒波が押し寄せるか分かりませんが、あくまでも歯科医師としての本分を忘れずに、自らと医院のレベルアップと同時に社会の変化にも眼を向けながら、職責を全うしていきたいと思っています。//(中略)//なかなか物理的、精神的余裕のない中、何とかオーボエは続けていますが、昨年秋の演奏会ではブラームスのハイドン変奏曲を、20年ぶりに吹かせてもらいました。異なる指導者や仲間、自らの成長(?劣化)、あるいは単に忘れているだけかもしれませんが、新鮮な発見が多い再演でした。また夏にはミヨーのソナチネを吹きましたが、「楽に聞こえて実は技術的に難曲」の典型であり、勉強になりました。さらに大変だったピアニストに大感謝です。//最後になりましたが本年もいろいろとお世話になると思いますが、よろしくお願い申し上げます。」

 今年も、基礎としての確実な歯周治療や歯内治療をベースに、補綴専門医としての知識と技術を活かし、患者さんの要求に合わせて保険の義歯からインプラントを含めた高度な治療まで、誠実に幅広く対応していきたいと思います。小さな医院ですが、歯科治療で困ったことがあるときは思い出して門を叩いて頂ければと思います。

 なお、上の絵は賀状の背景に使ったもので、娘の製作した伊勢崎のイメージ画です。今年は1月に市長選があるのですが、わが街にも大きな変革をもたらすような候補が市長になってくれればと思います。

2008年10月26日 (日)

9、10月の研修など その3

 もうひとつ、10月23日の木曜日の晩、伊勢崎市内のホテルクレインパークで、東京医科歯科大学教授、須田英明先生の講演がありました。中毛学術講演会という行事であり、今回は伊勢崎佐波歯科医師会の主催で行なわれたものです。
 須田先生は歯内療法の教室の先生で、現在東京医科歯科大学の副学長、理事も勤められている重鎮です。実は伊勢崎市のご出身で、ご実家でお兄さまが市内で歯科医院をされており、私もお世話になっています。卒業後顎補綴の部屋に残った時も、同じフロアで隣が歯内療法の部屋でした。

 さて今回も歯内療法に関する講演でしたが、澤田先生の時と同じように「見える」ことで治療のクオリティが飛躍的に上がるということが強調されていました。すなわちマイクロスコープ(実体顕微鏡)です。現在の臨床の流れにマイクロスコープを組み込むことは、はっきり言って非常に困難です。しかし今回の講演では「困った時のマイクロスコープ」ということ、すなわち常時ではなくも、どうしても必要な時や不安な時に使う、ということが言われていました。しばらくそれを目標に、現在の当院の歯内治療の流れを改革して行きたいと思っています。

9、10月の研修など その2

 さて続いて、10月12-13日に同じく母校同窓会の主催臨床セミナー、「オバマに聞こう、前歯部審美修復のすべて」を受講してきました。「オバマ」とは福島県開業、SJCDの小濱忠一先生のことです。小濱先生のお話はこれまでもインプラントのメーカーの講演等で聴きましたが、お一人で2日間も話されるのは珍しいということでした。

 もちろんこれまでも承知していたことですが、先生の症例は非常に素晴らしい、美しいもので、そのスライドを見るだけでも十分価値のあるもでした。というよりも、それが最も価値のあるものだと思います。細かいテクニックやノウハウの数々も説明され、それももちろん非常に有用なものでしたが、なんと言っても補綴においては実際の仕上がりを見ることがとても大切なものだと思います。やればここまで出来るのか、目標とするものはどんな物なのかを、しっかりと頭に焼き付けることが重要なことのひとつです。講演の中で先生は、「あちこち少しずつかじるのではなく、この人と思ったボスに徹底的に付いた方が良い」とおっしゃっていました。私は必ずしもその考えに組みする者ではなく、独立した個人であり研究者でもあるべき一医師として、徒弟関係のようなものに組み込まれるのはどうかと思います。それでも、自分の卒直後の事を考えると、大山教授治療のアシスタントとして過ごした1年間で見た、接した診療の素晴らしさ、出来上がりの美しさが、自分の臨床の目標、標準になってきました。

 さて、お話ではそれにしてももはやオールセラミックスの時代、と言えそうです。金属を用いたいわゆるメタルボンドか、金属を用いないオールセラミックスかということは先生によって意見が分かれるところ、メタルボンドで十分に美しく出来るのだから、強度など、より信頼性があり実績も長いメタルボンドでよいのでは、という意見があります。しかし今回強調されていたのは、オールセラミックスの方がより容易に美しく出来る、ということです。光が透過するオールセラミックスのほうが、当然天然歯に近い性質を持っており、それに近く作ることが出来ます。信頼性に関しても、ここ何年かでずいぶん出揃ってきたようです。それに金属の価格が急騰してきたのも、オールセラミックスに追い風のようです。なかなか自費の仕事はないのですが、私もできるだけ取り入れて生きたいと思っています。

2008年10月24日 (金)

9、10月の研修など その1

 ずいぶんご無沙汰してしまいました。夏から秋に変わる時期、夏バテの身体で本業の忙しさに加え、2回の泊まりの研修、オーケストラの演奏会、畑の模様替えといろいろ重なる大変な時期で、なかなかブログを書く余裕もありませんでした。

 さて、9月14-15の連休は東京医科歯科大学同窓会の臨床セミナー、「Ultimate Endodontics 本には書かなかった私のテクニック」に行ってきました。同窓の歯内療法の教室出身で現在東京で「歯内療法専門医」として開業されている澤田、吉川両先生による講演です。歯内療法とはいわゆる「歯の神経」の治療です。虫歯が進んで神経を取る、あるいはそれがうまくなおらなくて膿がたまった歯を治す、治療です。澤田先生の講演は4年位前にも一度受講し、大変勉強になりました。

 歯内療法は私達にとって本当に日常茶飯の治療ですが、私たち開業医のレベルでは予後が必ずしも良好とは言いがたい状態です。また多くの場合何十年も前と同じあるいはそれ以前のレベルの診療がされている場合が多いのが実態のようです。しかしながら先端のレベルではこの10年くらいでパラダイムシフトとも言われる変革があった分野です。それを実際に体現している専門医の先生の臨床を学ぼうという目的の講演です。
 細かいことはいろいろありましたが、今回最も強調されまた私も感じたことは、とにかく細菌感染性の物質を根管(歯の神経が入っていた、歯根の中の空洞)や根尖(歯根の先)から除去することが治療の目的であるということを、当然のことであるにもかかわらず強力に再認識すべきだということです。そしてこれを達成するために、歯科用顕微鏡によるエンドやマイクロサージェリーがあるということです。ですからそれ以前に、まずラバーダムという基本的な手技が必要だということがあらためて強調されました。

 私たち開業医の実際の臨床で、学生の時に習ったことで何が行なわれていないといったらラバーダムが一番に上げられると思います。忙しい臨床の中でとっても面倒くさいことですが、とにかくまずラバーダムをルーティンにすることから始めようと決心した次第です。これを十分に診療に定着させてから、顕微鏡を取り入れようと思っています。

 というわけでこのセミナーの後から、まずはこれまで不十分だったらバーダムの道具をそろえ、ボチボチ歯を選んでラバーダムを始めています。しばらくぶりにラバーを使ってみると、治療に「集中」できることが大変大きなメリットであると感じました。だんだんこの実施率を100パーセントに近づけて行きたいと思っています。

2008年9月 7日 (日)

無歯顎のインプラント:総義歯の作り方 番外編

 総義歯治療の番外編として、インプラントのことを書こうと思います。

 最近インプラントによる治療が急速に普及していますが、患者さんの中には無歯顎、すなわち総入れ歯ではインプラントはできないと思っている方が少なからずいらっしゃるようです。これは全くの誤解で、もともと現在のインプラントシステムの源流であるブローネマルク先生の初めての症例は、今から40年あまり前に行なわれた下顎の無歯顎に対する治療でした。何といっても下顎の総義歯はなかなか安定しづらいのですが、その解決法として最も骨が硬くて邪魔な神経等もない下の前歯の部分に4本のインプラントを埋入し、それで支えられる固定式の義歯を入れたケースでした。この第一号の患者さんはずっとこの義歯を使い続け、今から数年前に天寿を全うしました。すなわちインプラントは40年近く持ったということです。

 その後様々なインプラントのシステムが誕生し、また手術法、補綴法(歯の入れ方)も数多く開発され、現在も進化していますが、かなり異なった考え方が混在しています。例えばまずインプラントの本数に関して。無歯顎ということは補綴する「歯の数」は上下それぞれ14本になります。これに対し、あくまでも1本の歯に対して1本のインプラントという考え方、したがって14本あるいはそれに近い数のインプラントを使おうという考え方があります。一方では最も少ない数として3本あればよいという先生もいます。

 また、歯を失うということは歯そのものだけではなく、それを支える骨や歯肉も次第に失われていきます。適正な位置に歯を並べて十分な機能を回復するには、歯だけではなくこれらの組織も回復しなければなりません。それは手術的方法によって骨や歯肉を移植することによってもできますし、義歯のように人工的な歯肉の部分を作ることによっても可能です。

 そしてインプラントの数の差や歯肉部分の回復法に対応して、上部構造(埋めたインプラントに結合して実際に口の中で機能する人工歯などの部分)の形が変わってくるわけです。具体的には歯冠すなわち本当に歯の部分のみのものから、それに歯肉の部分がついたもの、さらには通常の義歯と同様に人工歯を歯肉の部分の上に並べたもの、などです。さらに、必要な場合にはオーバーデンチャーといって、インプラントを支えにした取り外し式の義歯を入れる場合もあります。これは同じ入れ歯ですが、普通の総義歯に比べてしっかりと固定されて動きにくく、また噛む力を支える能力も十分発揮されます。

 これらの中で最近話題を集めているのが、オールオン4というコンセプトです。これは上下それぞれ4本ずつのインプラントを、骨移植等を伴わずに傾斜埋入で骨のあるところに埋入し、さらに即時すなわち手術した日に咬める様にしてしまうという方法です。これはポルトガルのマロ先生の理論と数多くの臨床に裏付けられたもので、かなり確実性の高い術式だといわれています。

 当院でもこれまで数例の無歯顎症例を行なってきましたが、患者さんの顎や咬み合わせの状態によって、その方法は臨機応変使い分けています。しかし基本的な考え方は、必要最小限のインプラントの数でできるだけ経済的に、その上で機能的、審美的に十分なものを入れようということです。したがってインプラントの数は通常4~6本、顎の骨や歯肉が十分残っている時は歯冠のみの000034_20080705_0004連結ブリッジのような形で、歯肉が必要な時は義歯の一部分として作るようにしています。そしてできるだけ骨の移植や人工骨による骨増生は避けたいですが、どうしても必要な時は行ないます。

 近年CAD・CAMの手法を用いて精密な補綴物を作る事が行なわれ始めていますが、動揺がない故に天然歯に比べてより正確さが要求されるインプラントの技工においても、その利点は発揮されています。写真はチタンのブロックを削りだして作った構造上にハイブリッドセラミックスといわれる材料を盛り上げて作ったインプラント補綴物です。口の中ではネジによっ000034_20080705_0006てインプラントに固定されます。左はその様に作った当院の症例です。

 さて、このようなインプラント義歯を作るには、通常の総義歯を含めて一般的な補綴の技術がしっかりしていることが非常に重要だと思います。しかし最近、普通の義歯が上手くいかないため、あるいは残存歯を保存する治療がしっかり出来ないため、安易にインプラントに持っていく風潮が見られるようであり、それは本末転倒といえます。患者さんには是非、きちんとした一般の治療が行なわれている先生を探して、インプラント治療も受けてほしいと思います。その上でのインプラントの適用は、極めて大きな武器になるのです。

2008年8月25日 (月)

総義歯の作り方5:私の臨床

 しばらく総義歯の治療ステップに関して書いてきましたが、最後にまとめとして私の無歯顎補綴に関する考え書いておこうと思います。実を言うと前回の記事に書いた鈴木哲也先生の講演によって、漠然と考えていたことがまとまって言葉にしてもらったということもあり、多分に重なっている部分があります。

 技術的なことが大きなウエイトを占める(と思われている)歯科医療においては、「神技」を持つ「名人」といわれる先生方がおり(またはいると考えられており)、それを祭り上げてありがたがる様な傾向が歯科医師にも患者さんにもあると思います。そしてその様なことが、総義歯の治療においてけっこう特徴的に現れているようです。しかし以前にも書いたように、歯科医療があくまでも「医療」である以上、多くの人がリーズナブルな医療費でそこそこ合格点の結果を得られなければダメだと思います。

 しかしながら現状としては、患者さん側、歯科医師側双方にいくつかの医学的、あるいは社会的な問題点があります。まず患者さん側の問題。まず総義歯の難症例が増えているということ。平均寿命の延び、歯周病など歯がひどく悪くならないと抜歯しなくなったこと、等から総義歯が必要になる時には顎の条件がかなり悪くなっている場合が多いようです。鈴木先生の講演にもあったように、教科書にあるような古典的なアプローチではなかなか難しくなっているのが現状のようです。また患者さんの権利意識や巷間にあふれる安易な医学情報により、簡単にうまく行かなくては失敗やミスだという考えを持つ人が多くなっていること。問題点を探って調整や再製を行なえばうまく行く症例が、そのままになってしまう場合が多いように思います。

 それに対して歯科医師側の問題ですが、まず最低教科書どおりの臨床さえしているかどうか。経費や時間の問題で、なかなかそれさえ行なわれていないと私は思います。教科書どおりのステップで臨床を行うことで、かなりの症例ではうまく行くと思います。また難症例に対しては、それなりの勉強と試行錯誤が必要だと思いますが、上記のような患者さんの問題や歯科医の中での流行のために、特に若い先生方はなかなかその機会を得ることが難しい状況があると思います。

 ひるがえって私の目標とする臨床は、ホームランを狙うのではなくコツコツと、教科書的に丁寧なステップを踏むことによって、何とか実用に十分な義歯を作ることです。そして現在のように難しい症例が多い状況にあっては、義歯装着後の何回かの「調整」のステップを含んで初めて完了するのが義歯の診療と考えています。従って装着後に調整が必要なことは必然であり、それをもって失敗と考えないし、また患者さんにも思ってほしくありません。また基本的に技工を自分でやることで、細かな部分まで自ら把握することが出来ると思っています。また決定的なエラーがあったときには、責任を持って再製作を行ないます。

 それでも、何回も調整し、やり直してもダメな場合もあります。そのためのオプションとして、軟質裏装材(柔らかい材料)やインプラントがあります。総義歯はすべての負荷を顎の粘膜で受け止めるわけで、顎の骨と義歯の間に粘膜が挟まれることになり、その力を出来るだけ大きな面積に均等に分散させることが必要になるわけです。従って噛み合せの力が大きい人や顎の骨が小さい、あるいは凸凹している人が痛くなりやすいわけです。いくら調整してもこのようなことで痛みが出る人は、義歯のほうをやわらかい材料で作ることがひとつの解決法になります。

 また、義歯が動くのがどうしても気になったり義歯の大きさが気になる人には、インプラントによる解決法もあります。もちろん義歯の当たりが消えない人にも有効な方法です。「経済的なこと」と「手術が嫌ではないか」という2つのハードルを越えられれば、インプラントによる解決は最も効果的で、十分に機能するすなわち噛める、話せる、痛くない義歯が入ります。インプラントの威力は本当に大きく、取り外し式の義歯は残念ながらどうやっても絶対にインプラント義歯にはかなわないと思います。ただし、あまりに顎の骨が減ってしまっている場合、不可能な場合もあります。

 とにかく現代の医療とテクノロジーを持ってすれば、ほとんど(残念ながら「全部」ではない)の方には何とかそこそこ噛める補綴物を作ることが出来るはずです。歯をすべて失ってしまい、さらに治療がうまく行かずに困っている方、またもうすぐ歯が抜けてしまいそうで不安な方、あきらめずにご自分にあった歯科医院を探してください。

2008年8月 2日 (土)

総義歯の講習会

 去る7月26日(土)27日(日)と、土曜を休診にして、総義歯に関する講習会に行って来ました。(実はこの2日間私の入っている前橋交響楽団の重要行事である合宿が重なったのですが、残念ながら参加できませんでした。)主要歯科材料メーカーのひとつである「松風」主催の夏期講習会「超高齢社会に求められる現代無歯顎補綴の技と知恵」というタイトルで、奥羽大学教授の鈴木哲也先生のコースです。鈴木先生は、医科歯科大学のかつての第3補綴(総義歯学)にいらっしゃった先生で、私は在学・卒後とも直接のコンタクトはありませんでしたが、臨床のうまい先生として知られていた方です。私は一応補綴系の出身なので、逆に何となくこれまでこのような講習を受講するのを避けていたのですが、今回は演題と内容の紹介文に引かれ、思い切って参加してきました。

 内容は、期待に違わず非常に充実した2日間でした。まず総義歯というのはこれから虫歯と歯周病の治療、予防の進展、インプラントの普及によって少なくなってくる、また総義歯学ももうやり尽くされた学問である、という概念を持つ同業者も多いと思いますが、高齢者の増加すなわち分母の増加によって需要は大きくなること、同時に高年齢化によって非常に条件の悪い顎が増えてくることで、インプラントも出来ないような状態の顎に義歯を作ることが増えてくると考えられます。これまでの総義歯学はとっても良い状態の顎に対するものでしたが、きわめて条件の悪い患者さんに対する臨床では必ずしもそれを適用できない、ということです。この前提で先生の考えと臨床をずっと展開されました。

 受講した感想は、まずこれまで大学等で勉強したり聞きかじったりして自分の身についていることが、まずまず間違っていなかったということ。さらにその後の開業してからの臨床で自分なりに考え、やってきたことがやはり大筋で正しかったことが確認された感じで、とっても安心しまた自信が沸きました。その上で細かいことでとっても役に立つ新しいことが多かったこと、また幹の部分でも大変整理整頓して話され、大変勉強になりました。今回は本当に先生に感謝感謝の2日間でした。

 大変暑い東京でしたが、会場が湯島だったため帰りに予約していた「うさぎや」のどら焼きを買って、さらに良い気分で帰りました。

2008年7月22日 (火)

Er-YAGレーザー臨床研究会

 今日は東京国際フォーラムに、Er-YAG(エルビウム・ヤグ)レーザー臨床研究会第11回大会に行ってきました。主にモリタ(歯科の総合メーカー)製のレーザーのユーザーが会員の、メーカー主導の学会ですが、これまでいつも京都で開かれていたのが今年は東京だったこともあり、参加してきました。このレーザーを使用し始めて約1年半ですが、歯科用レーザーのこととなぜ私がこれを選んだのかは、当院のHPを見て下さい。今年の4月から保険に、無痛的ウ蝕除去加算としてEr-YAGレーザーによる硬組織(歯の)切削が20点(200円!!)認められ、注目されているところです。
 大会の内容は、特に目新しいことも少なかったのですが、この保険の「20点」をめぐってどう考えるか、もちろんたったこれだけ、という考え方もあるのですが、積極的にこれによってレーザーを使っていこうと前向きに考えるべきだという講師の先生の意見が、新鮮かつ最もと思いました。レーザーも夢の機械ではなく、思ったとおりの効果、例えば歯の切削では痛くなく、手早く、という効果を得るようになるには、それなりの研鑽、練習が必要です。どうしてもある程度高い機械なので、即効果が無ければがっかりするように思ってしまいがちですが、あくまでもひとつの「道具」であることを考えて、使いこなせるように努力する必要があるようです。

2008年7月19日 (土)

総義歯の作り方4

 しばらく中断しましたが、表記の記事第4弾です。

 かみ合わせをみた後、あとは技工操作で人工歯を並べます(人工歯配列)。そのまま完成まで行ってしまう事も可能ですが、当院では「試適」というステップを踏みます。これはいわば洋服の仮縫いみたいなもので、ロウ義歯、すなわち赤いワックスの歯肉の上に人工歯を並べたものを患者さんの口の中に入れて、前歯の位置が曲がっていないか、歯並びは患者さんの希望に沿っているか、口唇や頬のふくらみ具合はどうか、かみ合わせは正しいか、などを患者さんの意見を聴きながら、また術者の視点で観察しながらチェックし、必要なら修正します。
 慎重に採ったはずのかみあわせも、全く狂っている場合も時々あります。患者さんがご高齢であることや緊張のため、なかなか指示の様に顎を動かせないことも多く、また装置が総義歯の場合動いてしまいやすいことによります。試適のときに入れ歯の形になって初めて、適切に顎を動かせる場合もあるのです。そんな状況も、試適によってわかります。狂っている場合はもちろん、この段階でかみ合わせを採り直します。
 さて試適が済んだ後、ロウの部分をレジン(アクリル樹脂)に置き換えることで総義歯が完成します。ただ、患者さんに装着するまえに技工操作として、重合(アクリル樹脂を固めること)が終わったものを再度咬合器につけて細かい咬み合わせの調整をします。というのは、一連の技工操作、特に最後の重合の時、材料が収縮することによって歯の位置に必ず狂いが生じます。それをこの調整によって修正するのです。また大体並べてあった人工歯をしっかりかみ合わせ、また顎を動かした時にうまく運動できるように咬み合わせの面を微調整するのです。

 こうして出来上がった総義歯を、患者さんに装着することになりますが、その時も微調整は必要です。上下の顎に当たる面や咬み合わせの面等を入念に調整します。さらに患者さんに使っていただいた後も、必要ならば調整は続きます。ほんのちょっとのかみあわせの不調、床の長すぎ、短すぎ、厚すぎ、また人工歯の位置などによって、使い勝手や患者さんの感じ方は大きく変わります。

 そして大切なのは、義歯はセットして終わりではないことです。義歯によって顎の骨に力が加わると、大なり小なり必ず顎は減っていきます。また義歯の人工歯もどうしても磨り減っていきます。そのため、最低半年に1度くらいはかみ合わせや適合のチェックをすることが望ましいのです。あっていない義歯を使用していると、ガタツキによって痛くなったり、さらに顎の減る量が大きくなったりします。少し合わなくなった義歯は、リベースといって口の中で義歯の裏側に樹脂を流して咬んでもらうことにより、合わせることも可能です。